2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19J12703
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 真生 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 日清戦争 / 感染症 / コレラ / 赤痢 / 国際軍事医療ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度では、陸上自衛隊衛生学校、防衛省防衛研究所、東京大学総合図書館、大阪大学生命科学図書館などで、軍事医療関係史料の収集を行った。陸上自衛隊衛生学校および防衛省防衛研究所では、日清戦争・北清事変・日露戦争での医療関係の公文書を収集し、大学図書館では『陸軍軍医学会雑誌』といった軍医の学術組織の機関紙を収集した。これら史料は日清戦争における疾病の流行動態を明らかにするうえで不可欠な戦地の環境に関する記述が豊富であり、そうした史料に基づいて「日清戦争におけるコレラ流行と防疫問題」(『日本史研究』(689)、2020年1月)という成果をあげることができた。また2019年度中に掲載決定は叶わなかったが、「日清戦争における環境破壊と赤痢流行」という論文も投稿した。 またイギリスのBritish Libraryといった国外へも調査を行い、医学や衛生に関する国際会議の議事録の収集を行った。これらの史料は日清戦争後の日本陸軍軍医部における感染症対策構築を国際的な観点から検討すべく、国際会議と日本陸軍軍医部の関係性を明らかにするために調査した。先述した『陸軍軍医学会雑誌』では日清戦争以後、海外の軍医部や国際会議との関係性をうかがわせる記事が増加していっており、日本の動向を海外との関係の中で検討する必要が生じたことから、新しく行った取り組みである。こうした日本陸軍軍医部と海外との関係に留意しながら、感染症対策の構築過程を検討するという問題意識に基づいて、日本史研究会では「19世紀ヨーロッパにおける軍事医療ネットワークの形成と日本陸軍軍医部」と題する報告を、国史学会では「死亡率の時代-明治前期陸軍感染症対策の形成と国際環境」と題する研究報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
筆者の博論の核の一つである、日清戦争の疾病史的研究は前年度で概ねまとめることができた。さらにこの日清戦争関係の史料調査に合わせて、北清事変と日露戦争関係の史料を収集し、日露戦争と赤痢に関する研究に関してはある程度の見通しを立てることができた。このため、日清戦争および日露戦争に関する研究は次年度中に概ね固めることができる見通しが立った。 また、当初予定していなかった国際的な観点からの疾病対策構築という観点からの研究は、2019年度中の調査と学会報告を行い、評価を受けることができた。この新しい研究視座は、上記した日清戦争における疾病経験の研究と組み合わせることにより、グローカルな観点から日露戦争についての分析と評価が行えると考えている。さらにこれらの研究は、日露戦争以後の日本の帝国展開へもつなげてみていくことが出来るという、研究の展望も得ることができた。 以上から、2019年度の研究進捗状況はおおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、2019年度に新たに行った国際的な観点からの日本陸軍軍医部の疾病対策構築に関する研究を中心に行う。すでに2019年度においてイギリス調査を行ったが、十分に調査しきれなかったため、改めて調査を行う必要がある。ただし、現在の新型コロナウイルスの影響のため、国外調査は極めて困難な状況にある。そこで、国外調査が可能になるまでは、国内で得られるだけの国際会議の議事録を収集し、国外調査では国内で補いきれなかった議事録の収集をピンポイントで行い、短期間で調査を完了させられるようにしておきたい。また、国内調査では議事録に並行して『陸軍軍医学会雑誌』の調査と医療関係の公文書、軍医の個人史料などを収集する。以上の調査をふまえ、日露戦争における疾病対策に関する報告を行うとともに論文化する方向で研究を行いたい。 なお、コロナウイルスの影響で国外調査の見通しが立たなかった場合には、手持ちの史料と今年度の調査で収集した史料に基づいて、国際的な観点からの疾病対策構築に関する論文をまとめ、投稿していきたい。
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Research Products
(4 results)