2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19J13369
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鹿谷 有由希 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 腸管 / 蠕動運動 / カハール介在細胞 / 腸管神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管は食べ物の消化吸収を行う、生存に欠かせない器官である。消化吸収を正しく行うためには、腸管の適切な部位に適切なタイミングで食べ物が運ばれる必要があり、それを担うのが、ぜんどう(蠕動)運動である。蠕動運動は食べ物を必要としない胚発生期から見られることが知られているが、それがどのように確立されるのかについては、ほとんど分かっていない。 本研究から、胚発生期の小腸では発生が進むにつれて、蠕動運動の発信源である起点が特定の位置に限局することが明らかとなった。そこで、このような起点の位置決定機構を調べるために、腸管神経とカハール介在細胞(ICC)に注目した。腸壁には様々な種類の細胞が存在するが、中でも、テトロドトキシン(フグ毒)によって神経シグナルを遮断した場合に異所的な起点が見られること、ICCは成体において腸管のペースメーカーとして働くことから、上記の二種類の細胞が有力な候補だと考えた。 そこでまず、腸管神経の走行パターンおよびICCの分布を調べたが、どちらも腸管全体に万遍なく存在しており、起点の限局する位置に特異的な局在は見られなかった。しかし腸管神経やICCが機能を発揮するためには、細胞が活性化することが欠かせない。そこで次に、腸管神経およびICCの活性化と起点の現れる位置に関連がないかを調べるために、これらの活性化に細胞内カルシウム濃度の上昇が必要なことから、カルシウムシグナルの可視化を試みた。その結果、起点の位置がまだ定まっていない胚発生8日目では、蠕動運動による筋肉の収縮と同調したカルシウムシグナルの発火とは別に、ランダムな発火が見られた。一方で、起点の位置が決定された胚発生12日目では、蠕動運動と独立したカルシウムシグナルのランダムな発火は見られなかった。以上の観察結果から、このようなランダムな発火の消滅が、起点位置の決定に関係しているのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
成体において、腸管は食べ物の消化吸収を行う生存に欠かせない器官であり、腸管がその機能を正しく発揮するために重要なのが蠕動運動である。蠕動運動は食べ物を摂取しない胚発生期から見られるが、本研究により、蠕動運動の起点の位置が発生が進むにつれて特定の位置に限局することが見出された。 そこで、成体を用いた先行研究から、蠕動運動の起点の位置決定に副交感神経、腸管神経、カハール介在細胞(ICC)が関わっているのではないかと考え、研究を進めている。そこでまず、これらの細胞の走行パターンや分布を調べたが、起点の限局する位置に特異的なパターンは見られなかった。次に、神経およびICCの活性化を観測するために、カルシウムイメージングを試みた。その際、カルシウムセンサーであるGCaMP6sタンパク質の遺伝子を導入するために、従来のエレクトロポレーション法ではなく、レトロウイルスであるRCASを用いて高効率に腸管へ遺伝子導入を行う手法を新たに確立した。加えて、本研究室で開発された移植法により、遺伝子導入済みの培養細胞を移植することで領域特異的な遺伝子操作が可能となった。これらの手法は機能遺伝子の導入にも応用できるものであり、腸管における今後の機能解析に非常に有効なツールである。さらに、細胞の活性を人為的に操作するために、オプトジェネティクスの導入を進めている。上記の遺伝子導入法を用いることで、解析系の確立はほぼ終了しており、円滑に解析を進めることのできる環境が整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
成体において腸管がその機能を発揮するために、蠕動運動は大きな役割を果たしている。蠕動運動は食べ物を摂取しない胚発生期から見られるが、本研究により、発生が進むにつれて蠕動運動の起点の位置が特定の位置に限局することが見出された。しかし起点の限局する位置において、形態的な特徴が見られなかったことから、今後は細胞の活性に着目して研究を行う。 起点の位置決定に関わるものとして、先行研究や予備実験より、腸管神経とカハール介在細胞(ICC)に注目している。これらの細胞は共に活性化する際に細胞内カルシウム濃度が上昇することから、カルシウムシグナルを可視化することで、細胞の活性を観測する。カルシウムイメージングには、カルシウムイオンと結合することで緑色蛍光を発するGCaMP6sタンパク質を使用し、腸管への導入方法についてはすでに確立している。さらに、オプトジェネティクスによるカルシウムシグナルの人為的な操作を行う予定である。具体的には、青色光を照射することで細胞内カルシウム濃度を上昇させるチャネルロドプシンと、黄色光によって陰イオンを細胞内に取り込ませ、膜電位を過分極させることで細胞の活性化を抑制するハロロドプシンを用いて、腸管神経およびICCを人為的に活性化、または抑制する。以上の解析から、起点の位置決定に対する腸管神経とICCの役割の解明を目指す。
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