2019 Fiscal Year Annual Research Report
「インド民主主義」における包摂と排除―インド政治学とサバルタンの視座の比較―
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19J14229
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧 杏奈 明治大学, 明治大学大学院政治経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | サバルタン研究 / デモクラシー理論の批判的分析 / インド民主主義 / 政治的サバルタン |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、①サバルタン研究(方法論)の検討、②インドの政治学者による「インド民主主義」論の検討、③『サバルタン・スタディーズ』の論者による「インド民主主義」論の検討、そして④インドの農村部での「インド民主主義」の実践に関する調査準備を実施した。 まず、①に関しては、本研究を進める上での重要な方法論としてサバルタン研究の視座に着目し考察を行った。2019年10月の日本政治学会では、ポスターセッションにて発表を行い、サバルタン研究の視座を政治学に応用するための試論を提示した。また、11月の明治大学政経学会での発表では、「民衆」と「サバルタン」との違いに着目することで「サバルタン」概念への理解を深めた。これらの発表を踏まえて論文を執筆し、2020年4月に『政治経済学研究論集』(第7号)へ投稿した(採録決定済み)。 ②に関しては、インドにおける「インド民主主義」研究を体系的に描出するために、資料収集やインドでの動向調査を行い、それらの論点を取りまとめた。また、2020年2月に行ったインドでの調査研究では、現地の資料館や図書館、書店などを巡り「インド民主主義」に関連する文献・資料を収集した。 さらに、③については、主にパルタ・チャタジーによる社会構造分析に関する議論を整理した。チャタジーは市民社会の権力性を指摘し、そこから排除されているサバルタンによる政治行動の空間をあえて「政治社会」と表現しており、サバルタンの視点を社会科学研究に取り入れようと試みる『サバルタン・スタディーズ』の意向を反映した「インド民主主義」論を概観することができた。 最後に、④については、2020年2月にムンバイ大学政治学研究科を訪ね、現地の研究者からインドにおける直接民主主義制度として知られるパンチャーヤトに関するヒアリングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画通り、日本政治学会にて発表を行ったことに加え、明治大学政経学会においても発表を行い、それらを踏まえて論文を執筆・投稿し、さらにはインドでの調査研究も執り行うことができた。しかし、方法論上の検討の必要性を鑑みて、交付申請時点で計画していた研究内容に加え、本研究を進める上での重要な方法論であるサバルタン研究の視座に関する考察を同時進行で実施したため、計画と比べてやや進度は遅れている。インドの農村部での質的調査を行う上で、現場の声を聞き取る際に、研究者と研究対象との間に生じる権力関係を批判するサバルタン研究の視座は極めて重要なものであり、この視座について十分に理解することなしに意義のある調査や比較検討を行うことは難しいと考え、ゆえにサバルタン研究に関する方法論的な検討を第一に進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
計画上は2019年度に予定していたインドの農村部での質的調査を、方法論上の問題を解決した上で実施することが適当であると考え、2020年度に延期して執り行う方針で研究を進めてきたが、新型コロナウイルスの影響により、現在はインドへの渡航に関して見通しの立たない状況にある。そこで、理論的な研究をより深める方向にシフトしつつ、引き続き、インドで発行している雑誌や論文をインターネット等を活用しながら収集し、「インド民主主義」論の体系化を進めるとともに、インドの農村部における直接民主主義制度の実践について現地調査を行っているインド人研究者の文献等を用い、「インド民主主義」の〈理論・制度の場〉と〈現場〉との比較検討を可能な限り続ける予定である。
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