2019 Fiscal Year Annual Research Report
スキル形成理論に基づく女性の教育歴・資格取得・職業的キャリアに関する実証研究
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19J14489
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 和子 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 教育歴 / スキル形成 / 職業資格 / 資本主義の多様性論 / VET |
Outline of Annual Research Achievements |
JGSS LCS2009の個票データを用いて「職業資格」の取得状況を分析することにより、教育歴と職業的スキル形成の結びつきを把握することに注力した。この成果の一部は、学会(海外3、国内1)および査読付き学術雑誌の論文として公表された。以下、研究実績の具体的内容を記す。
(1) 職業的スキル形成に関する国際比較の理論(M.Estevez-Abe et al. 2013らによる「スキル形成レジーム」)を踏まえ、日本の女性の学校教育から職業的キャリアまでの人生コースの多様性が高まっている点を計量的に明らかにした。分析的戦略として2点が挙げられる。まず、女性回答者の中学卒業後の教育歴を追跡し、より詳細な教育歴を表すカテゴリカル変数を分析に用いた点。そして、具体的なスキルのタイプを捉えるために、職業資格の取得状況をスキル形成を捉えるための指標とした点である。この成果は『ソシオロジ 』に掲載された論文として公表された。 (2) スキル形成のパターンの時系列的変化を明らかにするための分析を開始した。JGSS LCS2013を用いて、JGSS LCS2009から得られた結果と比較することにより、4年間での女性のスキル形成の変化を把握することができた。日本は他国に比べてキャリア途中のスキル形成を支えるVETへの公的関与が低いこと、女性のキャリア途中で獲得されるスキルには学歴間の差が小さい点などが明らかとなった。 (3) 積極的に国内外での学会発表を行いフィードバックを得ることで、研究上の新たな発想が得られた。特にSASEでは、本研究が理論的に依拠する「資本主義の多様性論」に基づく国際福祉レジーム分野の研究者が多数出席しており、彼らとの交流を通して、国際比較に用いるデータや変数の扱い方について貴重なアドバイスを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画とした課題を予定通り完結させることができた。これに加えて、予想以上の進展があった。以下の3点が挙げられる。 まず、本研究トピックを更に発展させるための、研究上の発想を得た。女性の教育歴ごとに獲得されるスキルのタイプと仕事への活かし方の傾向を分析すると、1990年代後半を境に変化が見られる。特に大卒女性が獲得するスキルに変化があることから、この要因を、日本の高等教育システムと関連づけて論じていくことを新たな課題とした。本研究を、高等教育政策が女性に与えるインパクトへと発展させていく着想を得たことは、予想以外の大きな収穫である。 また、学術誌への論文掲載が計画よりも早く実現したことは、研究上の大きな励みとなった。 さらに、海外での国際学会に3回参加し、これは当初の計画を上回るものである。どの学会も本研究テーマに基づくものであるが、それぞれの学会において、テーマを異なる領域に発展させた内容とした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に沿って進める研究課題に加え、本研究テーマを発展させ、新しい研究分野を開拓するための予備的分析にも取り組む予定である。 まず当初の計画どおり、今年度は、前年度までに取り組んだ教育システムとスキル形成の関連から、キャリアへの影響まで分析範囲を拡大させる。これによって、本研究のテーマである、「教育歴、スキル形成、職業的キャリア」の結びつきに関する分析結果が完結することになる。前年度までに得られた記述的分析の結果を裏付けるための多変量解析に取り組む。その結果を、学会発表(国内2、海外1)によって公表する。また同時に、学術誌への投稿論文を完成させる。 これに加え、本研究テーマを発展させるための研究課題にも取り組む。そのうちの一つが、高齢女性の就労率の高まりとスキル形成に関する分析である。OECD諸国の中で日本人高齢女性の就業率は高く、海外研究者の関心が高い。その背景要因として、学生時に取得したスキルがどう影響を与えるかについての分析を、これまで本研究テーマのもと得られた実証研究の結果をもとに、発展させていく予定である。
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