2019 Fiscal Year Annual Research Report
内在性脂肪酸不飽和化酵素の三機能化による植物油で育つ海産魚新品種の作出
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19J14936
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
松下 芳之 東京海洋大学, 東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 不飽和化酵素 / 高度不飽和脂肪酸 / DHA合成経路 / ゲノム編集 / ノックイン / ササウシノシタ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9システムを用いてササウシノシタ科海産種ササウシノシタの内在性不飽和化酵素のアミノ酸配列の一部を同科淡水産近縁種のものへと改変し、植物油に含まれる脂肪酸であるα-リノレン酸から海産魚の必須脂肪酸であるエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸を自ら合成できる系統を作出することを目的とする。これにあたり、はじめにCRISPR/Cas9システムにおいてCas9ヌクレアーゼを標的遺伝子配列へ誘導するガイドRNA(gRNA)を複数設計したのち、試験管内における切断効率を指標に選抜した。次に、不飽和化酵素遺伝子の改変型部分配列約300 bpに、そのゲノム上の相同配列の上流と下流の約1 kbを相同腕として接続することにより、相同組み換え型修復によるノックインの際に鋳型となるドナーDNAを構築した。こうして準備したgRNAとドナーDNAを用いて、増養殖研究所南勢庁舎においてササウシノシタのCRISPR/Cas9システム顕微注入胚500個を作成したのち、生残した167個の胚と仔魚、および多数の未処理(野生型・対照区)受精卵を東京海洋大学館山ステーションへ輸送し、飼育を開始した。しかし、顕微注入区・対照区ともに生残率は低く、生残した顕微注入区の着底稚魚2尾において、ノックインは検出されなかった。そこで、館山ステーションにおける初期飼育の生残率を改善するため、新たに受精卵を輸送し、送気量と注水量、そして飼育槽の容量に注目して飼育条件の検討を行った。その結果、送気を強め、注水を弱めることにより、着底までの生残率を80%以上まで改善することに成功した。こうして得られた稚魚は、早期の種苗生産の実現と館山ステーションにおけるCRISPR/Cas9顕微注入の実施を目指し、24℃の高水温と飽食給餌による高成長条件において飼育を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は主にササウシノシタ不飽和化酵素遺伝子に対するCRISPR/Cas9ノックインシステムの構築を行った。本システムにおいて、gRNAの切断効率はノックインの成否をわける重要な要素のひとつであるが、試験管内において、改変領域の上流と下流についてそれぞれ80%以上の切断効率を示すgRNAの組み合わせを6通り選抜できた。高度不飽和脂肪酸は魚類の発生において重要な役割を示すことが明らかになっており、その代謝に関わる不飽和化酵素の機能改変は個体の生残に想定外の影響を引き起こす可能性がある。そこで本研究では、野生型の機能に改変型の機能を異なるバランスで付与する2種の改変型部分配列を含むドナーDNAベクターを構築した。また、これらのドナーDNAベクター中に存在する、先に設計したgRNA標的領域のプロトスペーサー隣接モチーフについて、ノックイン前後のCas9ヌクレアーゼによる切断を回避するため、部位特異的変異導入による除去を行った。以上の通り、本年度はCRISPR/Cas9ノックインシステムの基盤整備を完了し、増養殖研究所においてササウシノシタ受精卵への顕微注入に臨んだものの、年度内にファウンダー世代におけるノックイン陽性個体を作出するには至らず、当初の予定を約半年ほどずらす必要が生じた。そこで、本年度の評価を「(3)やや遅れている」とした。しかし、本年度における制限要因になったササウシノシタ受精卵の生産と低い生残率について、来年度は所属大学の実習場で養成した親魚を用いて継続的に種苗生産を実施し、本年度検討した仔魚の飼育条件下で育成することにより、十分に改善できるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に所属大学の実習場へ輸送したササウシノシタ種苗を親魚へと養成し、ホルモン投与による人為催熟技術も使用しながら、安定した受精卵の生産とCRISPR/Cas9システムの顕微注入を早期に実現すること目指す。しかし、来年度上半期中には体サイズが成熟可能な水準に達しない可能性があるため、増養殖研究所において生産された受精卵への顕微注入も継続する。これと並行しながら、ノックインの成否を簡便に判別する検出系の構築を進める。具体的には、改変型と野生型の間で異なる塩基配列を含むようにプライマーを設計し、その僅かなミスマッチを認識可能なDNAポリメラーゼを用いてPCRを行うことにより、改変型/野生型特異的な遺伝子断片の増幅を試みる。さらに、改変型配列を特異的に認識して切断する制限酵素を用いて、得られたPCR増幅産物を処理することにより、ノックイン陽性個体を高精度で検出する。なお、これらのプライマーの設計とDNAポリメラーゼおよび制限酵素の選定は既に完了している。また、ファウンダー世代作出の効率化を図るため、ドナーDNAとして高いノックイン効率と低い細胞毒性を期待できる一本鎖DNAを、本年度構築したドナーDNA(プラスミド)を鋳型として合成するほか、緑色蛍光タンパク質をコードするRNAを受精卵へ同時に顕微注入することにより、その成否を緑色蛍光を指標として簡便に判別できるようにする。ファウンダー世代において、多数のノックイン陽性個体を得ることができた場合、その生残と成長を追跡することに加え、筋肉や肝臓の脂肪酸組成を分析し、野生型と比較する。さらに、脂肪酸代謝酵素遺伝子群が高発現する脳や肝臓の組織細片や分散細胞を、放射性同位体で標識したα-リノレン酸の存在下で培養することにより、生体内における改変型不飽和化酵素の機能およびそのDHA合成経路への寄与について解析する。
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Research Products
(2 results)