2019 Fiscal Year Annual Research Report
GNSS搬送波位相を活用した測位を伴わない広帯域地殻変動モニタリング手法の開発
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19J20145
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 優介 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | GNSS搬送波位相 / 地震モニタリング / 連続的 / 放送暦 / 未知パラメータ分離精度 / プレート境界地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終目的は,GNSS搬送波位相変化から直接断層すべりを推定する手法 (以下PTS (Phase To Slip)) を用いた広帯域断層すべりモニタリング手法の確立である.この目的のもと2019年度はプレート境界地震へのPTSの適用を通じて,同手法による地震モニタリングの実現に向けた性能評価及び改良を進めた.具体的には2011年東北地方太平洋沖地震 (Mw9.0) の,本震および余震による断層すべりのPTSによる推定を試みた.同時にハイパーパラメータの最適値探索や二重差分生成方式の高度化といった様々な改良を加えた.その結果,宮城県沖の本震震源付近にピークを持つすべり分布を得ることができた.得られたすべり分布やそこから計算される地表変位及びモーメントマグニチュードは,いずれも測位を用いた先行研究による推定結果とよく一致した.さらに本震の29分後に茨城県沖で発生した最大余震 (Mw7.8) や22分後に岩手県沖で発生した余震 (Mw7.4) のすべりも検出することができた.これらの結果からプレート境界で発生するM7級以上の大地震によるすべりを,PTSで連続して正確に捉えることが可能であることが示された.また観測点で直接取得可能な衛星位置情報である放送暦の使用も試み,数分~10分程度の短い時間スケールであれば後処理で決めた軌道暦と同等の精度を実現できることを示した.このように本年度はPTSによる地震時すべりモニタリングが実現可能であることを示すことに成功した.一方,推定された時系列の長期的な安定性は未だ低い.そこでPTSの観測量である搬送波二重位相差の計算値を用いた未知パラメータ分離精度の評価も試みた.その結果,パラメータ間のトレードオフが生じていることを定量化することに成功し,よりゆっくりとした変動にPTSを適用するための基礎情報を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の概要のように2019年度は当初の計画より早く,プレート境界で発生する巨大地震による複雑な断層すべり現象へのPTSの適用に着手した.そして同手法による地震モニタリングの実現に向けた性能向上を進め,巨大地震の本震と余震による断層すべりを連続的かつ精度良く捉えることに成功した.またPTSの性能向上を進める過程で,同手法による地震モニタリングにおいて今後求められる改善点や課題についても多くの知識を得ることができた.さらに放送暦の使用による外部情報に依存しない推定等の,更なる高度化を目指す取り組みも大きく進展した.これらによりPTSを用いた地震時すべりモニタリングの実現に要する基礎的な情報が揃い始めている.マグニチュードや震源モデルの即時推定は防災・減災上も重要な課題であり,本年度に得られた知見が持つ意義は大きい.一方で,本研究の最終目的は広帯域な断層すべりモニタリング手法の確立だが,地震時現象以外のゆっくりした断層すべり現象への適用には依然として課題が多い.未知パラメータ間の分離精度の向上については,分離精度の定量評価と改善策の議論は進んだものの,具体的な精度向上に向けた技術開発は未着手である.以上のように地震時現象に関する取り組みは予定以上に進展したものの,ゆっくりした現象への適用に向けた取り組みは初期的な段階にとどまる.加えて本年度の成果については学会誌への論文の発表には至っておらず,対外発表を通じた同分野の他の研究者との意見交換が途上である点も課題と考える.これらの状況を考慮し,研究の進捗は全体として当初の計画通りであるという自己評価を下した.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で記した通り,PTSによる地震モニタリングは実現に向け大きく進展している.しかしながら同手法を用いた先行研究は極めて少ないため,次年度は引き続き様々な規模・場所の地震への適用事例を増やす必要がある.このために,M7級の海溝型地震の例として東北沖地震の前震や余震についてもさらに詳しく解析する.また2016年熊本地震のような内陸地震の例を加える.これらのように適用するイベントを増やすことで個々の事例に特有の問題とPTS自体の特性の切り分けが進み,同手法の性能がより強固に把握可能になると期待される.特に小規模なイベントへの適用事例は,PTSの断層すべり検出能力の限界を議論するうえで欠かせない.またPTSの挙動を制御するハイパーパラメータの設定や観測点配置といった,同手法による断層すべりモニタリングを実際に構築する際のシステム・アルゴリズムの設計に関わる問題についても知見が充実する.これと並行してゆっくりした現象への適用に向け,未知パラメータ分離精度の向上のための取り組みを本年度以上に推進する.まず本年度に試みた搬送波二重位相差の計算値を用いた議論をさらに進め,パラメータ間のトレードオフなどPTS内部の複雑な挙動を詳細に明らかにする.また現象が起こっていない期間のデータも投入することで,PTSの定常時の振る舞いを調べる.これらを踏まえて,具体的な精度向上策を見出し,実装に向けた取り組みを推進する.例えば大気遅延は既存のGNSS解析において,その補正技術の研究が盛んに進められている.したがって,そこで築かれた知見をPTSにも積極的に導入することが重要である.例えばプロセスノイズ値の最適化による推定精度向上や,数値気象モデルに基づく大気遅延量推定アルゴリズムを活用した直接補正などが考えられる.
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Research Products
(4 results)