2019 Fiscal Year Annual Research Report
児童養護施設で暮らす子どもの生活世界と教育課題の克服 ‐社会関係資本に着目して‐
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19J20254
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宇田 智佳 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 児童養護施設 / フィールドワーク / 社会関係資本 / 社会的排除 / 小学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、児童養護施設で暮らす子どもたちの生活世界を描き出すとともに、そこで生じる課題の把握を行い、解決策を提示することを目的としている。 本年度は、これまで行ってきた児童養護施設と小学校でのフィールドワークを継続して行い、得られたデータをもとに学会発表と論文投稿を行った。 まず、小学校での参与観察によって得られたデータについてである。施設入所児たちと周りの子どもとの関係性に着目し、学校経験を描き出していった。とりわけ、なぜ施設入所時同士で「かたまる」のかをこれまでのデータと併せながら「学校での排除」という視点から分析を行っていった。以上の施設入所児たちの学校経験について、学会発表と論文投稿を行った。 次に、児童養護施設での参与観察についてである。児童養護施設においては、6年生を中心に他の学年の小学生や施設職員との相互行為に着目し、参与観察を実施した。児童養護施設という集団生活に起因する困難が明らかとなり、その困難を克服するにあたり、子どもたち一人一人の居場所をいかに獲得していくかという視点から論文投稿を行った。 最後に、児童養護施設という集団生活ゆえの学習面での困難と、学校での施設入所児たちの教育課題の不可視化という視点から、施設入所児たちの教育課題を明らかにした。その上で、教育課題の解決に向けて、小学校と児童養護施設が連携した実践の可能性について検討した。以上の教育課題の把握と解決策について論文投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究がおおむね順調に進展した理由は、以下の通りである。 1点目に、データの蓄積である。これまで行ってきたB児童養護施設とC小学校でのフィールドワークを継続して行い、データの収集を行っていった。前年度から継続して行っているフィールドノーツの記述がたまってきた。特に、施設入所と退所という局面や、保育園児などより多様な子どもたちとの相互行為も観察が可能となり、より施設入所児たちの生活をダイナミックに描きだすことができた。 2点目に、福祉社会学や家族社会学などの隣接領域に対する本研究の位置づけ及び問題意識の明確化である。学会へ積極的に参加し、隣接領域の研究者との対話を通して、本研究の位置づけと問題意識を明確化することができた。 ただし、修士論文で取り上げた事例の再検討を今後も繰り返し行っていき、論文投稿をする必要がある。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の課題の推進方策として、以下の3点を挙げる。 1点目は、さらにフィールドワークに基づいたデータを継続して収集し、データに基づいた知見の提出を行っていくことである。具体的には、これまでの論文投稿の内容をブラッシュアップするとともに、学校生活のなかで「児童養護施設での生活」がどのような場面で立ち現れ、施設外の子どもたちに解釈されるのかを検討するとともに、生育家族との関係がどのように施設入所児たちの生活に影響しているのかを分析していく。 2点目は、施設職員や教員に対するインタビュー調査を実施することである。インタビュー調査から、施設入所児たちの課題を多角的に検討するとともに、課題解決にむけた支援を明らかにしていく。 3点目は、日本社会における児童養護施設が果たす役割の意義についての検討である。現在の日本では、社会的養護に占める里親委託の割合の上昇が図られており、今後児童養護施設の役割は変容しうると考えられる。そこで、児童養護施設がこれまで社会によってどのように捉えられ、そのような役割を担ってきたのかを整理した上で、今後児童養護施設の役割がどのように変容しうるのかを、先行研究の整理とインタビュー調査によって得られたデータから検討していく。
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Research Products
(1 results)