2020 Fiscal Year Annual Research Report
一酸化炭素による赤外線吸収の時間変動を用いた活動銀河核分子トーラス構造の解明
Project/Area Number |
19J21010
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大西 崇介 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 活動銀河核 / 分子トーラス / 一酸化炭素 / 振動回転遷移 / 吸収線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、すばる望遠鏡の近赤外高分散分光器で取得したスペクトルを用いて一酸化炭素(CO)分子吸収線速度の時間変動、吸収線形状を調べる。そして、活動銀河核(AGN)分子トーラスを構成する分子雲(Clump)の速度場、温度、柱密度などの物理状態を明らかにし、分子トーラスモデルに制限を課すことで、分子トーラスの構造維持過程を探る。 本年度で申請者は、ダストに覆われた活動銀河核(AGN)を持つ超高光度赤外線銀河IRAS 08572+3915 NW (IRAS08NW)について、2019年に取得した一酸化炭素(CO)振動回転遷移吸収線スペクトルの、(1)より広い波長域における速度成分分離を行い、(2)吸収線の速度分散など力学的性質によるトーラス内分子雲(Clump)空間情報の決定、(3)温度など物理的性質によるClump励起状態の決定を行い、(4)理論モデルとの比較を通じて分子トーラス内部構造がClumpyであることを示唆した。また、本内容で投稿論文初稿を書き上げ、投稿準備中である。 本年度の解析結果から、CO振動回転遷移吸収線を生じている分子トーラス内の分子雲が単純な熱平衡にはなく、強い遠赤外-電波放射場による放射励起を受けていることが観測的に示唆された。加えて、トーラス内部が、中心ブラックホールの近くで中心から噴出し、遠くで中心に落下するような動的構造であることも示唆された。これらの成果は、IRAS08572+3915銀河の活動銀河核について、トーラスの内部構造が古典モデルで記述される静的なものではなく、流体力学モデルで記述される動的なものであることを示唆する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度において、当初は他の活動銀河核についても、IRAS08572+3915銀河と同様のCO振動回転遷移吸収線スペクトル解析を行う予定であった。しかし、IRAS08572+3915の解析結果を理論モデルに照らして解釈することに予定より時間がかかり、そこまで至らなかった。以下、詳述する。 年度初め当初はIRAS08572+3915銀河の活動銀河核について、一部波長域のCO振動回転遷移吸収線スペクトルを得ていたため、年度内にその解析を終え、多天体についても同様の解析を行う予定であった。しかし、解析を進めると共に、吸収線スペクトルを生じている分子雲の熱平衡状態が想定ほど単純なモデルで記述できないことが分かってきた。そこで、より複雑なモデルでのスペクトル解釈を行うためのモデル整備、パイプラインの構築に時間がかかったため、年度内はIRAS08572+3915の解析に終始することとなった。 しかし、分子トーラス内の分子雲が、これまで考えられていたものよりも複雑な熱平衡状態にあることが分かった点で、今年度の成果は新規性の高いものだと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は、(1)今年度で求めた吸収線成分の温度・柱密度を理論モデルと照らし合わせることで、観測された温度と柱密度が再現されるように、AGN光度などの物理パラメータに制限を課すことと、(2)他のCO振動回転遷移吸収線が観測されているAGNについて、IRAS 08572+3915同様に、中心速度が同等で、速度幅の異なる吸収線成分が存在するかを確認することを大きな目標とする。さらに、(3)現在までのIRAS08572+3915解析結果について、初稿段階にある論文を完成させ、投稿する予定である。 (1)について、CO振動回転遷移吸収線の解析を行った結果、吸収線を生じている分子トーラス内分子雲が、単純な熱平衡にはなく、強い遠赤外線-電波放射場により放射励起されていることが分かった。このことは、分子トーラス構造が単純な古典モデルで記述される構造ではなく、近年発展している流体力学的な数値モデルで記述される構造に近いことを示唆している。よって、来年度でトーラス構造の数値モデルと今年度で得たIRAS08572+3915の結果を比較する予定である。 (2)について、他の3つ以上の天体でもCO振動回転遷移の高分散スペクトルが取得されているため、それらを同様に解析し、分子トーラス内部構造について系統的な考察を行う予定である。
|