2019 Fiscal Year Annual Research Report
フェミニストNGOが産出する「第三世界」のジェンダー表象
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19J21075
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 凜太朗 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ジェンダー / 表象 / フェミニズム / 第三世界 / 女性に対する暴力 / NGO |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、バングラデシュのアシッドバイオレンス根絶運動を事例として、社会変革的な理念をもって運動する「第三世界」のフェミニストNGOが「第一世界」に向けた広報・啓発活動の一環として行う表象実践の意味の全体像を、①表象そのものから読みとれる意味内容と、②「第一世界」の具体的なオーディエンスがその表象に対して行う解釈や価値判断の両面に着目しながら、明らかにするものである。 交付1年目となる2019年度は、主に1点目の課題である、表象そのものがもつ意味内容の解明に取り組み、そのうえで研究成果の発信を行った。具体的には、バングラデシュのフェミニストNGOがインターネット上に公開する写真集を対象としたテクスト分析により、そこに登場する様々な人物たちがどのように描かれているかを探った。 写真集全体の数量的分析および記号学的分析の結果、写真集中に登場するサバイバー女性は総じて、暴力被害を克服し経済的自立を遂げるパワフルな女性として描かれているという傾向が見出された。その点では、「ジェンダー平等」や「エンパワメント」など、フェミニズムが国際的運動を通して主張してきた諸理念と共鳴する側面を有しているといえる。しかしながら他方で、そうしたパワフルな女性像は、所得創出活動や母親業といった「女性的」な役割をサバイバー女性に背負わせることによって、グローバル資本主義に貢献する主流の開発モデルの論理をも強固に内包させていることが明らかとなった。 この分析結果は、1980年代以来の「第三世界」ジェンダー表象論が十分に問題化してこなかった論点、すなわち「第三世界」に拠点をおく女性運動組織が産出する表象をいかに読み解くべきかという論点につき、経験的研究にもとづいて新たな解答を得ることに成功していると考えられる。以上の成果は、2019年度中に学会発表にて公表したのち、投稿論文として学術雑誌に掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付1年目に進める計画であった写真集のテクスト分析については、上記の通り順調に進行し、その成果を学会発表ならびに投稿論文のかたちで公表することができた。また、テクスト分析を行う際に理論的枠組みとして参照したトランスナショナル・フェミニズムという思想潮流については、別途、日本の女性学・ジェンダー研究による受容の状況をふまえつつ、学会発表にて国際的動向を紹介することができた。 さらに、2点目の課題であるオーディエンスの反応についても、ある関西圏の女性団体から協力を得ながら、写真集の一部を呈示して参加者にディスカッションをしてもらう形式での学習会の開催を実現した。そこでの参与観察から得られた記録と、後日参加者を対象に実施したインタビューのデータをもとに、現在分析を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
交付2年目となる2020年度は、昨年度から進めてきたオーディエンス調査の成果を、学会発表・投稿論文にて発信するよう努める。その際、マス・メディアが産出する「第三世界」ジェンダー表象へのオーディエンスの反応を明らかにした海外の諸研究と比較対照しつつ、本研究の意義を明らかにする。 また2020年度は、英語圏の文献を詳細に検討する作業により、トランスナショナル・フェミニズムおよび「第三世界」フェミニズム思想を基盤とした「インターセクショナリティ」の視点と、日本で流通している「複合差別」概念との根本的相違を、理論的に明らかにしていきたい。この作業は、本研究全体の理論的枠組みを整備することにもつながる。 さらに、本年度以降は、これまでに事例としてきたバングラデシュのフェミニストNGOだけでなく、日本社会を拠点に活動する主要な国際機関や国際開発NGOの広告・出版物にも分析の対象を広げ、「第一世界」に流通する「第三世界」ジェンダー表象の意味作用を、より広範囲に明らかにしていきたいと考えている。
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Research Products
(4 results)