2020 Fiscal Year Annual Research Report
フェミニストNGOが産出する「第三世界」のジェンダー表象
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19J21075
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 凜太朗 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ジェンダー / 表象 / フェミニズム / 第三世界 / 女性に対する暴力 / NGO |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究全体の目的に照らして、採用2年目となる2020年度は、開始当初、オーディエンス調査を継続実施しながら、データの具体的分析ならびに成果の公表を行うことを課題と想定していた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴って、特に調査対象者に高齢者が複数含まれるという事情もあり、一年を通して、人を対象とする調査の見通しが立たない状況となった。これを受けて今年度は、研究の力点を以下のように変更した。 (1)研究全体の理論枠組みの整理 本研究全体の基盤をなす「第三世界」フェミニズムの論者C. T. Mohantyの理論を、主要な著書にもとづいて整理した。具体的には、2000年代の日本において岡真理と千田有紀という2人のフェミニスト研究者のあいだで交わされた論争を振り返ったうえで、Mohantyのいう「第三世界」フェミニズムが、特定の人種的アイデンティティをもつマイノリティ女性の意向を絶対視するような思想ではなく、女性の経験が記録され読解される「表象」のフィールドの可視化を通じてフェミニズムの「連帯」を目指す思想であることを明らかにした。 (2)海外の先行研究の翻訳 国際開発・人道支援を行う諸組織の表象実践に関する研究として、「第三世界」の女子教育への「投資」を呼びかける言説群を批判的に分析した1本の英語論文を日本語に翻訳した。本論文は、女子教育への寄付や賛同を求める大衆的な広告や政策関連文書の言説群が、「フェミニスト的」な装いをまといながら、新自由主義的な経済開発と多国籍企業による利益の独占を称揚するメッセージになりうることを豊富な事例から明らかにしており、批判的表象分析にかかわる幅広い領域の日本の研究者に重要な示唆を与えるはずである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の通り、当初予定していた、人を対象とした調査が遂行できなかったことの影響は小さくない。その一方、文献研究による「第三世界」フェミニズム理論の整理は一定程度進捗し、学会発表にて成果を公表することができた。また、今後さらに表象分析を進めるにあたって重要な指針となる海外の先行研究を翻訳し、学内紀要にて公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)今年度学会大会にて発表した「第三世界」フェミニズム理論に関する論考を精査し、来年度は学会誌の投稿論文の形で成果を公表する。 (2)今年度学内紀要にて公表した翻訳論文を指針として、日本社会を拠点に活動する国連機関や国際開発NGOの広告や出版物にも表象分析の対象を広げていく。 (3)感染の動向を注視しつつ、昨年度まで行っていた聞き取り調査を継続し、データの分析と成果の公表に努める。
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