2019 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本仏教と戒律――宗教言説史におけるプラクティスの再検討
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19J21102
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
亀山 光明 東北大学, 国際文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 戒律 / プラクティス / 釈雲照 / 日蓮主義 / 肉食妻帯 / 仏教的世界観 / 旧仏教 / 海外留学僧 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用初年度に当たる2019年度は、関係資料の調査、蒐集を進めながら昨年度までの研究の継続として、①戒律実践を支えた仏教的世界観とか科学的世界観の対峙、②世紀転換期における「新仏教」と「旧仏教」の交錯、③近代仏教史叙述における戒律の位相、を検討し新たに、④明治中期における在家教化と十善戒実践論、⑤日蓮主義における「在家」概念の形成と戒律、⑥日本人留学僧のタイ仏教観、という課題に取り組んだ。 ①については、科学的世界観と戒律実践を支えた仏教的世界観の対峙を扱い、日本国際文化学会にて「「西洋」の衝撃と宗教実践―明治期における「仏教因果説」論争に注目して」他、東北大学国際文化学会にて報告をおこない、「釈雲照ー戒律復興への見果てぬ夢」として論文集に寄稿した。②については、近代仏教を代表する運動である新仏教運動と雲照の交錯を扱い、論文「旧仏教の逆襲ー釈雲照と新仏教の交錯をめぐって」を執筆した。③については仏教史叙述における戒の問題を検討し、「近代という窮地ー「戒」なき時代の日本仏教をめぐって」を執筆した。 ④については、明治期において釈雲照が在家教化として十善戒を儀礼や勤行の枠組みで如何に語ったのかを問題とし、「念仏と戒律―釈雲照『十善戒法易行弁』を中心として」を日本近代仏教史研究会にて報告した。⑤については、在家化が一特徴とされる近代仏教を日蓮主義から逆照射し、「明治中後期の法華運動と肉食妻帯―田中智学を中心に」を第五回EACJSにて報告した。⑥については、近代仏教における戒律言説のトランスナショナルな側面を明らかにすべく、タイ留学僧・織田得能を扱い“Late Nineteenth Century Japanese Encounters with Theravada Buddhism”をTohoku Conference on Global Japanese Studiesにて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究会・学会での研究発表の機会に恵まれ、また本研究課題に関する成果を論文化して発表できたので、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、近代日本における戒律言説の展開を多様な角度から検討した。さらに今後の研究の推進方策としては、昨年度の成果の論文化に努めるとともに、積極的に学会や研究会に参加することで先達たちからのご意見を仰ぎながら、①僧衣論争における戒律の位相、②明治後期における梵妻論の展開、③越境する持戒僧たちの朝鮮半島体験を課題として取り組む予定である。 ①については、従来の近世仏教研究において如法の僧衣は戒律復興運動のシンボルとなったことが知られる。しかし、この問題の近代的展開は研究史上必ずしも明らかではない。特に明治期以降ではいわゆる肉食妻帯令により僧侶が法要外に僧服を着用しないことが認められるなど、服装史上の転換点となった。さらに同時期においては改良服を目指す流れや、留学僧たちの南アジア体験での現地の僧侶理解など、多くの潮流が交錯していくのであり、この問題を扱いたい。 ②については、僧侶の妻帯が定着し始めた日清戦争前後を境に明治の仏教界において戒律論争が生じるなか、当時「梵妻」などと呼ばれた男性僧侶の女性配偶者たちがどのような眼差しを向けられたのかを「ジェンダー」的視点を踏まえながら扱いたい。 ③については、トランスナショナルな近代仏教の一側面として、近代の日本人持戒僧の朝鮮体験を扱いたい。今日の韓国において、「山中仏教」としての朝鮮仏教が、日本の植民地支配により妻帯仏教へと変貌したことがしばしば指摘されるのであり、僧侶の妻帯は「抗日」-「親日」仏教を区分けする一つの指標として扱われる。本課題では日韓併合の前段階において日本人持戒僧たちが朝鮮半島の仏教に如何なる眼差しを向けたのかを考察する。
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Research Products
(13 results)