2019 Fiscal Year Annual Research Report
デイヴィッド・ヒュームの方法論及び因果論の虚構主義による統一的再構成
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19J21115
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飯塚 舜 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2023-03-31
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Keywords | ヒューム / 抽象 / 信頼性主義 / 懐疑論 / 暴露論証 / 因果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『人間本性論』におけるヒュームの方法論及び因果論を、一種の虚構主義を打ち出す議論として再構成することを目的として研究を行い、その成果を学会発表及び雑誌論文の形で公表した。 研究発表の詳細は以下の通りである。①2019年6月29日、東京大学にて北京大学、ソウル大学と共同で開催された第11回BESETO Conference of Philosophyにおいて研究発表「Hume’s Theory of Abstraction: From the Point of View of Normativity」を行った。②2019年11月2日ブカレスト大学にて開催された第8回Bucharest Graduate Conference in Early Modern Philosophyにおいて研究発表「Explanation and Justification in Hume’s Causal Theory: if Hume is a reliabilist, what does he say about causal beliefs?」を行った。③東京大学哲学研究室『論集』37号(2019年)に、①を加筆・修正した同題の論文を掲載した。 ①-③はいずれも、本研究の目的であるヒューム哲学の再構成に向けた基礎にあたる成果である。①及び③では、ヒュームの方法論における重要概念である抽象(abstraction)を取り上げ、その適切さの基準は主体が有する観念の内容によって内在的に与えられるとする標準的解釈を批判的に検討し、言語使用と有用性の観点から、むしろ外在的に基準が与えられる可能性を示した。 ②ではヒュームの因果論を認識論の観点から検討し、信頼性主義解釈を提示する先行研究を援用することで、彼の提示する信念形成プロセスの心理学的説明が、懐疑的結論を導く論証の一部を成していると論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究がおおむね順調に進展していると評価できる主たる理由は、ヒューム哲学の虚構主義的再構成に向けた本研究の基礎的な部分において、一定水準の成果が得られたことである。①及び③で示した、ヒュームが抽象の適切さについて外在的な基準を用いているとする解釈は、彼が虚構を単なる誤謬とはみなしていないことを示す手がかりとなることが期待される。②で論じた、信頼性主義と信念形成プロセスの心理学的説明を前提として論証された懐疑論からは、正しい因果推論が可能である一方で、因果信念は正当化されないことが帰結する。この一見して倒錯した結論は、ヒュームの理論哲学を合理的に再解釈する試みにおいて、虚構概念を再評価するモチベーションを与える。 また、成果発表の場に恵まれた点でも、研究におおむね満足な進捗を得られたと言える。まず、当初の予定通りBESETO Conference of Philosophyにて発表を行い、関心を同じくする東アジアの若手研究者と交流を深めた。また研究分野を考慮し投稿先を変更したものの、学術誌『論集』に論文を掲載することができた。さらに、海外での学会発表は来年度以降の実施を予定していたが、ブカレスト大学にて発表の機会を得て、欧米で活躍する研究者より、隣接分野である思想史・科学史の観点から有益なコメントを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では、ヒュームの方法論及び因果論の再検討という、本研究の基礎的な部分において一定の進展があった。来年度はまず、②で提示したヒュームの因果認識論の描像を、学会での質疑を通して得られた知見に基づいて洗練させ、論文の形で公表することが目標となる。 またこれまでの研究を通して、ヒュームの理論哲学の合理的再構成を目指す研究では、しばしば認識論やメタ倫理学における現代的な議論が参照され、そうした手法が一定の成果を収めているという知見を得た。本研究でも、正当化条件を巡る論争と、各枠組みにおける阻却事由(defeater)の位置づけに関する研究を中心として現代認識論のサーベイを行うことで、ヒュームの因果認識論を理解するための補助線を引くことが有効であると考えられる。 以上に示した方針に則って基礎的研究を完了し、本研究の最終的な目標である虚構主義的再解釈の礎とすることが、来年度の計画となる。
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