2019 Fiscal Year Annual Research Report
女性向けAV視聴者の社会学的研究:性的主体化とセクシュアル・ストーリーの観点から
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19J21151
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
服部 恵典 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | ポルノグラフィ / フェミニズム / カルチュラル・スタディーズ / 性的主体化 / アダルトビデオ |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、これまでの研究から一貫している問題意識である、M.フーコー、J.バトラーなどの性的主体化論を軸に女性向けアダルトビデオを論じるという理論的関心を、10月の日本社会学会で報告した。フェミニズムによる反ポルノ批判を,「異なる見方」をキーワードに整理しつつ、男性向け/女性向けポルノを単に類似または差異で分析するときに陥る隘路を指摘した。これを回避するための方策として、性的主体化の装置としてポルノを捉えた先行研究の理論枠組みを拡張する必要性を提示した。 続いて、11月には『年報カルチュラル・スタディーズ』に投稿した(掲載決定)。10月の日本社会学会で報告した理論的課題を、ファンの視聴実践において具体的に分析したものである。つまり、女性向けポルノにとって、①「正しい」女性表象でないという分析、②「女性」が揺るぎがたく持つ優位性があるという分析、③男性向けポルノと同様の価値観で成り立つという分析、のいずれにも問題点がある、そこで、「女性向けアダルトビデオ(以下AV)のファンは男性向け/女性向けAVという区分をいかに捉えて視聴しているか」という問いを通じて、ファンが男性向け/女性向けAVの両方を楽しんだりしながら男性向けAVを「異なる見方」に開いていく実践を、インタビューデータを用いて明らかにした。 また3月には、ソーシャル・コンピュテーション学会で報告予定であった(新型コロナウイルスの影響で延期になったため2020年度に達成される)。男性向けAVと女性向けAV、また女性向けAVメーカー「SILK LABO」「GIRL’S CH」の間には、商品説明文の特徴語にどのような差異があるのかを自然言語処理によって明らかにするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
総合的にいって、研究内容や研究を進める順番、研究成果を報告・投稿する媒体に変更はあったものの、進捗は当初の計画通りである。 計画通り、受入研究者のゼミで自然言語処理への習熟を目的とした実習が行われた。しかし、自然言語処理の技能習熟に従い、その対象は当初の予定であるファンの語りよりも、アダルトビデオ(AV)の商品説明文としたほうが、より研究の可能性に開かれていることがわかった。したがって自然言語処理は、これまでの研究のうち、視聴者の分析よりも、男性/女性向けAVの内容分析と接続させることを優先させた。 当初の研究計画とは異なり、新たなインタビュー調査に進展は少なく、これまでのインタビューデータの分析をするにとどまったが、『年報カルチュラル・スタディーズ』原稿の執筆・査読過程を通じ、次年度以降のインタビュー調査の方針が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度は、前年度の達成である、①性的主体化・ジェンダー化概念を軸に女性向けアダルトビデオを論じるという理論的課題の報告、②この理論的課題の、「女性向けAVのファンは男性向け/女性向けAVという区分をいかに捉えて視聴しているか」という問いを通じた実証的分析、の2点を延長する方向で行う。 特に、①の理論的課題について、視聴者よりも映像内容に着目した実証的分析を行う。第一に、アダルト動画販売サイト「FANZA」における男性向け/女性向けAVの商品説明文の計量テキスト分析によって、その差異と類似を探索的に明らかにする。第二に、探索的な量的調査を踏まえた質的分析として、映像を構成する「視線」と性的主体化・ジェンダー化の関係性を、男性向け/女性向けAVで比較分析する。第三に、前年度②の研究結果を踏まえながら、女性向けAVを視聴する女性ファンが、男性向けAVの視聴をファン実践に組み込める理由を、内容分析の面から明らかにする。このとき、自社の男性向けAVの一部分を単に切り取るだけで短めの「女性向け」動画として提供している女性向けアダルト動画サイト「GIRL’S CH」に着目し、「男性向けAVがなぜ・いかにして女性向けに編集可能なのか」という問いを通じて、映像それ自体の内部にジェンダー攪乱的要素を分析する。
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Research Products
(2 results)