2019 Fiscal Year Annual Research Report
Building Community in the Vicinity of a Military Base: the Case of Ebeye Island, Republic of the Marshall Islands
Project/Area Number |
19J21278
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大竹 碧 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | マーシャル諸島共和国 / クワジェリン環礁 / 軍事基地 / 強制移住 / 歴史人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
マーシャル諸島共和国は独立国であるが、国内のクワジェリン環礁に米国軍事基地を有する。環礁住民の多くは、基地建設に伴って、同環礁内のイバイ島への移住を強いられた。一方、軍事基地での労働機会を求める、他環礁からの自発的な移住者もイバイ島に流入した。現在では、同環礁を出身地とする強制移住者およびその子孫と、他環礁出身者が島内で共存する。本研究の目的は、イバイ島を事例として、軍事基地の周辺において構築される社会経済の態様を、歴史過程と人々の実践から明らかにすることである。本年度の研究実績は主に次の2点である。 第一に、イバイ島での実地調査を約2ヵ月間行い、大別して2点の成果を挙げることが出来た。1点目は、クリスマスの祝祭や教会への献金が行われる基本的過程の把握である。これにより、祝祭における経済活動の特異性だけではなく、日常的な社会関係や権力関係のあり方も浮き彫りになった。2点目は、基地労働者の日常生活や、基地内での経験の把握である。 第二に、アメリカ合衆国での歴史文書調査を約1ヵ月半にわたり行った。当初の計画ではハワイ大学での調査を予定していた。しかし本年度は、太平洋諸島地域に関するローカルな史料ではなく、クワジェリン環礁への米国軍事基地建設を包括する、冷戦期のマクロな軍事・政治的動向に関する史料の収集を優先し、ワシントンD.C.の米国公文書館で調査を行った。調査の結果、大きく2種類の文書や写真を入手することが出来た。1点目は、米国による冷戦期のミサイル実験計画に関する文書である。2点目は、当該実験計画を背景とした、イバイ島の市街地整備計画である。 今後は、本年度に得られた実地調査および歴史文書調査のデータを総合的に分析することで、軍事基地の周辺で人々が紡ぎ出す生の実践を明らかにすることが出来ると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、概ね順調に進展しているといえる。理由は次の3点である。 第一に、イバイ島で行った実地調査に際し、新たなインフォーマントとの信頼関係形成と、現地語であるマーシャル語の習得を行うことが出来た。幅広い属性の人々が住まうイバイ島においては、多様な人々にとっての生活のリアリティを把握することが重要である。本年度は、これまで関係形成が困難であった、基地労働者への予備的な聞き取り調査を行うことが出来た。 第二に、初年度の研究において重要な、基礎データの収集を行うことが出来た。のべ約4ヵ月間の海外調査を遂行し、マクロな歴史的文脈と、イバイ島居住者のミクロな日常実践の両側面に関する豊富なデータが得られた。本データの分析を進めることで、具体的には次の2点を明らかにすることが出来ると考えられる。1点目は、クワジェリン環礁における基地建設やミサイル実験計画をめぐる、米国政府および軍内部での交渉や葛藤である。2点目は、イバイ島居住者同士、およびイバイ島居住者と基地居住者間の社会関係の態様である。今後は、これらのデータに立脚しつつ、議論の精緻化と補強を図る形で研究を進める。 第三に、新たに得られたデータを手掛かりとしながら、先行研究文献の批判的レビューの作成を進めることが出来た。当初予定していた、経済、強制移住、および脱植民地期オセアニア等のテーマを中心に、幅広い文献を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、実地調査と歴史文書調査の2つを軸として推進する。本年度同様の手法を取りつつ、これまでに得られたデータに立脚して発展的なデータの収集を行う。これにより、イバイ島における社会経済がいかなる形で構築されてきたかを明らかにする。 第一に、実地調査においては、日常的な社会関係や権力関係に関する基礎的な理解を元にしつつ、主に次の2点に着目する。1点目は、イバイ島内における、コミュニティ間境界の維持や流動である。本年度は、イバイ島居住者間で形成される多様なコミュニティや階層の存在を明らかにしたが、それらは人々の関係性を固定するものではない。したがって今後は、居住者による関係形成の動態を検討する必要がある。2点目は、基地労働者の日常実践である。本年度は、数人の基地労働者の協力を得て、予備的な聞き取りを行った。今後は、インフォーマントを増やすことで議論の一般性を高めると共に、各基地労働者の仕事内容や基地での経験だけではなく、イバイ島での暮らしや社会関係の態様を把握する。これにより、基地労働者の生に関する多面的な理解を試みる。 第二に、歴史文書調査は、ローカルな次元に焦点を移して行う。本年度は米国による冷戦期の軍事構想の中にイバイ島を位置づけることに努めた。今後は、主にイバイ島の市街地建設過程に着目し、ハワイ大学もしくは米国公文書館の分館において調査を行う。
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Research Products
(1 results)