2020 Fiscal Year Annual Research Report
Building Community in the Vicinity of a Military Base: the Case of Ebeye Island, Republic of the Marshall Islands
Project/Area Number |
19J21278
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大竹 碧 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 景観 / 土地返還運動 / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、本年度は、米国およびマーシャル諸島共和国での調査を取りやめた。そのため、国内での文献研究を軸に、軍事基地の周辺都市であるイバイ島の社会経済を分析する上で、有効な理論的視座を模索した。そして、文献研究と、2019年度までに収集した歴史文書および実地調査のデータを突き合わせ、研究成果の公表に務めた。具体的には、以下の2点を軸に考察を進め、論文作成および口頭発表を行った。 第一に、イバイ島における再定住地の建設過程と、現地住民による、建造物の利用や転用のあり方である。イバイ島では、太平洋戦争以前の日本統治期から現在に至るまで、日本軍、米軍、米国政府、そして現地政府が、軍用施設やインフラなどを建設してきた。現在でも、日本統治期の遺構や、米国統治期に建設された住居など、各アクターによる介入の痕跡が残存している。本研究では、重層的な歴史を鏡写しにするイバイ島の景観と、住民が共有する歴史記憶の結びつきや断絶を明らかにした。 第二に、1980年代にクワジェリン環礁全域で展開された、土地返還運動である。本研究では、土地返還運動に参加した人々と、参加しないことを選択した人々の双方を包括的に検討し、クワジェリン環礁にかんする歴史の捉え方を、米国中心的なものから、イバイ島住民の論理を中心に据えたものへと、ずらすことを試みた。 また、海外調査は行えなかったものの、日本国内の文書館において、新たな歴史文書の収集を遂行することができた。本研究は主に、現在のイバイ島をとりまく社会経済的構造と、住民の生活実践に着目する。だが、クワジェリン環礁の米軍基地が、日本軍基地の跡地を利用して建てられた点など、日本による統治は、イバイ島を含む同環礁の人々の生に影響を与え続けてきた。そのため本研究においても、日本統治期の地図や報告書を収集し、今後、分析の対象とする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、人類学および隣接諸領域の文献を新たに収集し、既存の資料を「景観」と「歴史」の観点から再度整理することができた。したがって、一定の研究成果はあったと判断できる。 しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い、当初予定していた米国およびマーシャル諸島共和国での調査を行うことはかなわなかった。本研究は、米国の研究機関に所蔵された歴史文書の収集と、イバイ島における長期の実地調査を軸に据えており、パンデミックによる渡航禁止・制限措置は、研究計画を大幅に遅らせることとなった。そのため、研究が順調に進捗しているとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、米国およびマーシャル諸島共和国において、調査を行うことができるよう計画を進める予定である。現時点では、軍事基地の建設から土地返還運動、そして国家の独立に至るマクロな歴史過程と、住民のミクロで日常的な生活実践の関係性を捉えきれていない。また、日米各統治期の遺構や住居などの「モノ」と人の相互作用にかんする分析に加えて、米軍基地の関係者、基地で働くマーシャル人住民、土地返還運動の記憶をとどめる元来のイバイ島住民など、クワジェリン環礁で生活する異質な人々同士の共在と折衝のありようを、イバイ島での実地調査から明らかにすることが必要である。 一方、オセアニア島嶼部地域は、植民地期における感染症の蔓延と、それに伴う急激な人口減少の歴史を共有する。そのため、新型コロナウイルス感染症の発見以降、マーシャル諸島共和国政府も厳重な入国制限措置を継続してきた。また、同地域の脆弱な医療体制や、上述の歴史的背景を鑑みれば、パンデミックの沈静化を待たぬまま、島嶼部地域への渡航を試みることは、同地域住民や研究協力者の生命や安全を損なうべきではないという研究倫理に反する可能性もある。したがって、今後も渡航が困難となった場合は、日本国内における資料収集も射程に入れながら、研究計画を進める予定である。
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Research Products
(4 results)