2020 Fiscal Year Annual Research Report
Japanese Intellectuals' Experience in the Soviet Union during the interwar period : Organization, Tourism and Publishing
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19J21496
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
吉川 弘晃 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 日ソ関係史 / 文化交渉史 / 対外認識 / 日本近代史 / 文化外交 / 国際関係史 / ソヴィエト文化 / 共産主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
未曾有の緊急事態により、令和2(2020)年度の予算は翌年度まで繰り越して使用した。そのため以下では通例に反して、令和2・3(2020・21)年度に行った研究について記す。 2020・21年度はそれまでに引き続き、1)博士論文の目的・手段・射程・議論の大枠を練り直すことに力を注ぐ一方、2)そのために必要な日本・ロシア・欧米諸国の資料・文献を収集・分析していく予定であった。しかしながら、2については2020年春からの新型コロナウイルスの世界的流行により、ロシアや欧米は無論のこと、日本国内での資料収集でさえ困難をきわめた。21年度になっても海外渡航の見通しが立たないまま、22年2月末にはロシア・ウクライナ戦争が勃発し、モスクワでの現地調査は絶望的となった。そのため、1)最新の国内外の先行研究を精読することで自らの研究枠組をより堅固なものにするとともに、2)日本国内に所在する資料やデータベースのみで可能な研究を進めた。 主な成果は次の3点である。A)1920-40年代に日本や欧米で出版されたソ連文化受容に関する刊行物(雑誌・機関紙・旅行記など)を収集し、記事の内容や書き手、出版元などを精査した(散逸・未整理状態にあるものも多かった)。B)(2019年度から続く)日本知識人の対ソ交流団体の実態調査について、同団体の機関紙・関連出版物、秋田雨雀をはじめとする関係人物の日記や回想録、警察や外務省資料などから整理した。特に先行研究では不十分だった共時的な位置づけ(ソ連の文化外交との関わり、欧米での対ソ交流団体との比較)を、欧米やロシア語の文献を通じて明確にした。 C)日露・日ソ関係史に関する英語・日本語で出版された2冊の先行研究を批判・検討し、英語と日本語で書評論文を発表した。そこからイデオロギーの左右で区分されてきた従来の日露・日ソ文化交渉史のあり方を乗り越える方法論的なヒントを見出せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究はやや遅れている。その最大の理由は前述の通り、世界的な疫病流行と調査予定地での戦争勃発である。当初の予定では2020年度にはモスクワに中長期滞在し、現地の未公刊文書を整理・分析し、2021年度にはこれらを日本国内で収集した資料と照合して博士論文を完成させるつもりであった。しかしながら、今回の事態のせいで、計画がほぼ2年間後倒しとなっただけでなく、博論で強みとするはずだったソ連側資料の多くを使わないままに論文を完成させねばならなくなった。そのためしばらくの間は、口頭報告でフィードバックをもらったり、定期的に指導教授や研究協力者に相談したりして、研究計画を大幅に修正することに注力した。その結果、遺憾ながら、2019年度からの研究成果をいまだに投稿論文として世に問うことができていない。とはいえ、以上の過程で(また学会文化の「デジタル化」が手伝って)、様々な分野の研究会との繋がりを構築した。そのおかけで研究計画の遅延は最小限に抑えられたように思う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は再構築した研究計画をもとに、日本と欧米の文献・資料を中心に博士論文を執筆していく予定である。そのためにまず、2022年5月に予定していたロシア留学は取りやめ、その代わりに秋以降に北米の研究機関での調査を行う。同地では一定量のソ連関係資料やそれに類するデータベースだけでなく、欧米諸語で発行されたソ連文化の刊行物を閲覧できる。次に、前年度に口頭報告した内容を含めた国内での研究成果を、春から夏にかけて査読論文として投稿していく。さらに、北米での調査と現地研究者との議論を踏まえた内容を文章化した上で、その一部を国際査読誌に投稿する。同時にまだ十分に分析できていない1930-40年代のソ連研究誌についても本格的な検討をはじめていくつもりである。
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