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2021 Fiscal Year Research-status Report

タイの信教の自由に与えたキリスト教の影響と課題:『宗教寛容令』成立過程をめぐって

Research Project

Project/Area Number 19K00085
Research InstitutionAoyama Gakuin University

Principal Investigator

森島 豊  青山学院大学, 総合文化政策学部, 教授 (70468388)

Project Period (FY) 2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords宗教寛容令 / マックギルバリー / ラーマ五世 / 信教の自由 / アメリカ領事館
Outline of Annual Research Achievements

タイ国で最初の信教の自由を保障した「宗教寛容令」の成立過程を調査している。これまで「宗教寛容令」のキリスト教宣教師の影響に注目してきたが、当該年度では政治的要素に注目し、バンコク王朝が宣教師の訴えを利用して行ったタイ北部への政治的介入に「宗教寛容令」の成立が関わっている可能性を考察した。この研究は3月に「アジアにおけるピューリタニズムの影響と限界ーータイ国における信教の自由をめぐってーー」(『ピューリタニズム研究』15号)で報告した。
その後、当時のアメリカ領事館の資料を発見し、その資料の中にキリスト教宣教師たちの手紙とそれに対応した領事館の報告書を見つけた。実は、「宗教寛容令」の存在は宣教師マックギルバリーの報告と自伝に依拠しており、その存在は写真に残されているが、原本は紛失されていて現存していない。また、宣教師の報告ではラーマ五世による「勅書」とされているが、不可解な点が多く残されている。その一つが、タイの公文書館にこの勅書が存在しておらず、押印も国王の王印ではないことである。今回の資料は国際的にも未発見のものであり、宣教師の報告以外で「宗教寛容令」に関わる初めてのケースで、第一級の資料発見となる。
しかし、古くなったクセの強い手書きの手紙は判読が難しく、特に領事館のアメリカ本土に送られた報告書とバンコク王朝とのやり取りを記したタイ語の手紙の判読には多くの時間を要する。今後、それらの資料を分析し、成立経緯を明らかにする証左としたい。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

「宗教寛容令」に関わる国際的に未見の資料を発見できたことは研究の進展であるが、その判読分析に時間がかかっていることと、コロナウイルスの感染拡大により関連資料収集や研究者との面談が実現できていないことから、研究がやや遅れていると判断した。
発見した資料は当時のアメリカ領事館のシッケルズの外交文書資料の中に収められていた、マックギルバリーからの訴状と宗教寛容令の写しである。資料の中にはアメリカ本土に経緯を詳細に報告した文書も収められている。これにより、マックギルバリーの自伝にある証言が真実であることが判明した。この発見はタイのキリスト教史研究の第一人者であり、『宗教寛容令』の歴史的意味に疑問を投げかけているスワンソンの研究に重要な問いを投げかけるものであり、国際的にも重要な発見である。
けれども、前年に引き続き、新型コロナウイルス感染拡大の影響でタイに資料調査に行くことができなかったことは痛手であった。また、マックギルバリーに関する資料がアメリカのフィラデルフィアにあるthe Presbyterian Historical Societyに眠っていることも判明したが、新型コロナの影響で渡米することができず、調査を進められない状況があることも事実である。
それでも、タイ北部の歴史と政治を専門とする複数の国内研究者の情報から、タイ北部の政治的覇権を求めていたバンコク王朝の事情を確認することができ、成立過程における政治と宗教の関係を明らかにする傍証を固めることができた。

Strategy for Future Research Activity

今後の研究の推進方策について、次の3点に絞って調査を行う計画である。
第一に発見したシッケルズの外交文書の判読・分析を進め、マックギルバリーの証言との整合性とバンコク王朝との交渉の裏付けを確認する。第二に、継続課題となっている勅書の公印の出所を調査する。第三に、パヤップ大学とthe Presbyterian Historical Societyにある資料調査を通して勅書発布後にキリスト教弾圧が行われた事実を確認する。
第一点目については、現在「宗教寛容令」の現物が紛失しているが、シッケルズ外交文書により、マックギルバリーの証言以外の関係者により関連する重要な文章が発見された。これにより、成立過程の詳細な状況を把握できると同時に、勅書がどのようなレベルの文書であったのかを確認する。
第二点目に関しては、勅書に印字されている公印が国王の印でない可能性があるので、その公印が政府関係の何の公印であるかを確認する。これは第三の調査にも関わるが、もし国王の印でなければ、勅書が正式の公式文書でないことになり、キリスト教信仰への弾圧が続けられた可能性につながる。
第三の課題について、タイ教会歴史学者ハーバート・スワンソンは、宣教師たちの手の届かない場所でキリスト教徒への迫害が行われていたという証拠を示している。もしその事実が複数あるのならば、勅書は外交問題への展開を防ぎ、同時にタイ北部覇権を目論んだバンコク王朝の政治文書である可能性がある。この事実を確認するために、現地でのキリスト教弾圧の情報を調査する。

Causes of Carryover

当該年度に研究調査のためタイ国とアメリカに渡航する予定であったが、新型コロナウイルスの関係で海外調査をすることができず未使用額が生じた。次年度に海外調査を行い、未使用額はその経費に充てることとしたい。

  • Research Products

    (5 results)

All 2022 Other

All Journal Article (2 results) (of which Peer Reviewed: 1 results,  Open Access: 2 results) Presentation (2 results) (of which Int'l Joint Research: 1 results,  Invited: 2 results) Remarks (1 results)

  • [Journal Article] 「開院式勅語における「平和国家」成立過程――東久邇宮と石原莞爾の国体思想に基づく平和思想の影響」2022

    • Author(s)
      森島 豊
    • Journal Title

      『青山総合文化政策学』

      Volume: 13 Pages: 3-20

    • Peer Reviewed / Open Access
  • [Journal Article] 戦後平和思想に潜む伝統思想 IIーー戦前の国体と戦後の平和国家ーー2022

    • Author(s)
      森島 豊
    • Journal Title

      『キリスト教と文化』

      Volume: 37 Pages: 171-189

    • Open Access
  • [Presentation] 試練と摂理ーー創世記二十二章を通して2022

    • Author(s)
      森島 豊
    • Organizer
      第7回東日本大震災国際神学シンポジウム
    • Int'l Joint Research / Invited
  • [Presentation] なぜ日本では福音と人権理念が根付かないのかーー日本の不思議と国家の秘密2022

    • Author(s)
      森島 豊
    • Organizer
      青山学院大学宗教主任神学研究会
    • Invited
  • [Remarks] Research 07.タイ北部におけるキリスト教伝播の一要因

    • URL

      https://www.aoyama.ac.jp/research/highlights/2019_news_07.html

URL: 

Published: 2022-12-28  

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