2021 Fiscal Year Research-status Report
14世キリスト教霊性における神化思想の受容と展開:エックハルトとゾイゼを中心に
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19K00119
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
阿部 善彦 立教大学, 文学部, 教授 (40724266)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | エックハルト / タウラー / ゾイゼ / ドイツ神秘思想 / 神化思想 / 魂における神の誕生 / 離脱 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、エックハルト、タウラー、ゾイゼについて、原典の読解を進めることができた。とりわけ、神化思想に深くかかわる「魂における神の誕生」にかかわる箇所に加えて、「離脱」(abegescheidenheit)にかかわる箇所についても、原典を通じて理解を深めることができた。とくに、「離脱」を、神との関係において、神以外のいかなるものとの関係にもない、神以外のものに対する完全な困窮状態として解明可能であることをあとづけ、さらに、それが、同じくエックハルトにおいて重要な思想概念である「像」(bilde)についての教説と一体的にとらえることで、離脱における、その困窮状態における無一物的な生の新しさが「魂における神の誕生」の生起の内実であるとして理解可能であるという解釈の方向性を導くことができた。つまり、エックハルトの像論を介して見れば、エックハルトの説く「離脱」と「魂における神の誕生」は、それ以外のあり方が一切不可能な神の存在・生命の純粋性・一性そのものである父子の誕生の動性を、「神の根底が私の根底であり私の根底が神の根底」であるとしか言えないほどの、純粋で一なる像的反復として自らにおいて生きるという、神の像・神の子としての人間の恩寵的生のありよう以外の何ものでもないと読み解かれることがわかった。また、並行して、昨年度同様に、身体および知性の両面から、人間全体を見つつ、その神化のありようを解明を進め、その際には、エックハルトが根拠をおいているアウグスティヌスなどの教父たちの神理解、聖書理解にさかのぼって検討を行った。こうした一連の研究成果については、21年度中の研究発表の機会や論文、共著作において公開することができた。また一次資料や二次資料の収集についても十分に目配りができたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の思想史的状況についての原典にもとづく解明については、それなりの手ごたえと見通しを得ることができた。ただ、研究者との交流については、研究計画当初の予定通りにはならない状況が続いている。もちろん、オンラインによるリモートの研究発表などにより、昨年度よりは、状況は改善しているが、その点においては、次年度以降にとりもどしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
21年度の研究を通じて、像論の視点を深めてゆくことで、エックハルトにおける神化思想の展開がいっそう理解可能になるであろうという展望を得ることができたため、これをさらに発展させたい。その際、「誕生」「離脱」だけでなく、エックハルトが説く「放念」や「貧しさ」「荒野[砂漠]」「乙女」「女」などもまた、そうした純粋で一なる像的反復として、像論的に、どこまでも無一物的に徹した人間の生のありよう以外の何ものをも説くものではないと考えられることがわかったので、この点もテキストを通じてさらに確認したい。それと並行して、タウラーとゾイゼの原典の読解をさらに進め、エックハルトとの共通性と独自性をさらに精査したい。21年度の研究成果を踏まえるならば、タウラーとゾイゼにおいては、エックハルトにおいて高度に思弁的にも展開される像論がやや背景に後退し、それにかわって、被造的無の自覚、自己無化が強調されるようであり、「像」よりも「無」「無化」の強調によって、ゾイゼ、タウラーのテキストに深く感じられる実践的・修練的生のトーンが作り出されているという見通しをえたので、その確認を進めたい。また、思想史的影響としては、リュースブルクやヘルト・フロートとその周辺で流布していた、中世オランダ語またラテン語文献のなかにおける、エックハルト受容の解明も進めてゆく。これについては、かねてよりその公刊が待たれていた中世オランダ語またラテン語原典の校訂版が入手可能となり、研究状況が好転したこともあり、とくに、エックハルトの『教導講話』の受容状況に焦点を絞りながら、原典の解明を進めてゆく。
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