2023 Fiscal Year Annual Research Report
14世キリスト教霊性における神化思想の受容と展開:エックハルトとゾイゼを中心に
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19K00119
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
阿部 善彦 立教大学, 文学部, 教授 (40724266)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 神化思想 / 教父思想 / 神の像 / 受肉 / エックハルト |
Outline of Annual Research Achievements |
エックハルトの神化思想を14世紀的文脈の中で明らかにする作業を進めた。特に、最終年度においては、タウラー以外に、ゾイゼの神化思想にまで研究を展開することができた。そこで、エックハルトにおける「魂における神の誕生」の教えが、ゾイゼにおいて本質的に受容されていることが改めて確認された。またこうした14世紀の神化思想が教父思想にもとづいて展開されていることも確かめられた。研究期間全体を通じて深められたこれらの研究成果は学会発表また雑誌・書籍で公開された。 また研究期間全体を通じて、「神化思想」の途絶・消滅という、東方キリスト教には生じえない、西欧キリスト教思想史に固有の事象について、エックハルト前後に決定的な思想転換の時期があったという見通しを立てることができた。この点は稲垣良典が『神学的言語の研究』(創文社、二〇〇〇年)でトマス・アクィナスの「神化思想」が正当に評価されるべきことを、J.P.トレルの重要な研究を踏まえて指摘しているところからも大いに学ぶところがあった。それによれば「神化思想」は「神の像」として創造された人間に固有の神的本性の受容性を明らかにするものとして、古代教父から修道院神学、中世スコラまで、東方教父と共通するキリスト教神学の伝統をなしていたのであり、トマスの教父研究および聖書理解において深められ、『神学大全』第三部のキリスト論・受肉論に結実しているとされる。また、トマス以降、その神学の伝統は西欧においては表舞台から姿を消し、のちのトミズムでもその神化思想はまったくかえりみられなかったとされる。特に、本研究の最終年度では、エックハルトが、トマス・アクィナスが未完で終わらせた『神学大全』第三部のキリスト論・受肉論をふまえながら、教父的伝統をいっそう追求して神化思想を展開したものが「魂における神の誕生」の教えにほかならないとして、その思想的連関を明らかにした。
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