2020 Fiscal Year Research-status Report
翻訳における概念形成と主体変容:20世紀ドイツ・フランスの思弁的翻訳論
Project/Area Number |
19K00120
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西山 達也 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40599916)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | デリダ / ハイデガー / ナンシー / シモンドン / バンヴェニスト / ルロワ=グーラン / 洞窟の比喩 / 転導性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は20世紀のフランスおよびドイツを中心に発現した《翻訳をめぐる思想》の内実を明らかにすることを目的とする。この目的に達するために、以下の点を解明する。(1)《翻訳をめぐる思想》が20世紀フランス・ドイツにおいて、多様な学問領域を越境しながら、いかにして新たな概念の創出と学知の編制に関与したのか、そして、概念と学知の変革可能性をどのように理論的に思考したのか。(2)この思想潮流が、主体の単独性と複数性、そして主体そのものの生成と変容をどのように思考したのか。これらの問いかけに基づき、本年度は第一に、マルティン・ハイデガーおよびジャック・デリダが各々「存在論の歴史」と「形而上学」と呼ぶものに対して遂行した変形/翻訳/解釈の作業の現場に接近し、その具体的な手続きを検証した。次に、思考と主体の変容というテーマが哲学史において(プラトン「洞窟の比喩」以来、ジャン=リュック・ナンシーに至るまで)「離脱」のモチーフとして思考されていることに着目し、「Homo sapiens monstrare」という論攷を発表した。この論攷は、後期旧石器時代の洞窟絵画をめぐる哲学の言説を検討するという内容を含むものであり、現代のイメージ論・記号論・人類学の研究における「思考と主体の変容」の主題に関しても併せて検証した。本年度には、さらに、科学認識論および技術哲学の分野で重要な研究をおこなったフランスの思想家ジルベール・シモンドンに関する調査・研究を遂行した。シモンドンはゲシュタルト心理学やサイバネティクス、行動生物学等の成果を取り入れることで、人文社会科学から自然科学にまでまたがる概念と学知の再編にかかわる独創的な思考を展開しており、その「転導性」の思考を《翻訳をめぐる思想》のヴァリエーションとして捉え直すことを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は前年度に開始した作業の成果を共著書刊行、論文発表、および書評の形で刊行することができ、研究が大いに進展した。以上のような理由から(1)と判断した
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定では海外での研究資料の収集をおこなわなければならないが、コロナウィルス感染症蔓延の状況次第では海外出張が実施できなくなる可能性が高い。海外の図書館で資料収集を行うことができない場合の代替策として、資料取り寄せや古書店を通じての購入が可能である資料を購入する方針を立てている。図書館での資料調査と、ネットを通じての資料収集では、集められる資料の範囲が全く異なるうえ、後者の場合、ある程度資料を幅広く収集しなければならない。この作業にはそれなりの意義があり、予想外の成果を生み出す可能性もあるが、やはり海外での網羅的な資料調査・収集とは別の作業と考えねばならない。ちなみに、上述の代替策を実施した場合、海外からの資料取り寄せおよび購入費は高額となることが予想され、海外調査が取りやめになるとしても、書籍購入費と旅費が相殺し合い、次年度以降の経費の総額に大きな変化は見込まれない
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Causes of Carryover |
予算使用の端数が出たため次年度繰り越しとした。
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