2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00246
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
永吉 秀司 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (40461842)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本画 / 再現 / ローコスト / 仏教絵画 / 古典絵画再現 / 地域資産創生 / 文化財保護 / 表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本殿壁面のローコスト支持体作成のための試作素材候補の選定と、文献と写真資料を基にした再現壁画制作を中心に研究を進める。 まず紙の選定、貼付け方法の考察として、弘長寺の全面協力により位牌檀下の壁面の改修を条件に現存状態の解体と試作壁面の制作を実践した。 その壁面は昭和40年代に一部改修された場所だが、実践研究の結果、その当時使用された固定材と創建当時の固定材が混在することへの描画面に対する弊害が明らかとなった。その考察を踏まえ、改修では、ローコストでリペア可能な固定材の選定し、支持材は創建当時の物を使用した壁面制作方法について考案し、その実制作にあたった。試作壁面としては、6面の提供を頂き、現在3面の制作が完了している。また、支持体から再検討する壁面の改修方法については、建築建材で容易に入手可能なファルカタ合板を支持体にした制作方法をについて考察し、現在1面の制作が完了している。基底材も併せて採用する素材を選定しており、この試験設置の状況から描画に対応できるものであると判断し、今日に至る。この試作壁面の描画については、阿弥陀経の解釈を基本として、住職と檀家衆のヒヤリングを受けて下描きが完成している状態で、絵具の経年変化の実証研究素材としての役割を担うものとする。 その支持体研究の考察を踏まえ、平成13年の本寺基礎工事改修の折に撤去された太子像背面の壁画の支持体として採用した。基底材もその実践研究で使用したものと同等の素材を選択し、描画再現として現在2面の壁面の描画が完了している。 再現方法としては、壁画があった当時の写真を複数集め、視覚確認できる箇所はその画像を基に再現し、欠損している部分は本尊背面に現存している壁画などを基に描画面を再現した。絵具の先生についても同様に本尊背面で使用された絵具の彩色方法や筆運を基に再現描写している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
再現事業の場として提供していただいている弘長寺の配慮により、別壁面を利用した仮設置、試作、設置確認などがスムーズに実施することができ、当初計画していた素材選定の検証については、予定通り順調に進んでいる。しかし、既存の壁面や現状での材質調査等に関しては、保存状況が悪いこともあり、近年修復した基底材などについても改修が必要なものが多く、また民間レベルでの修復箇所も多く存在するため、そのリペアに多くの時間を費やすこととなった。 また、基礎部分の改修工事の折に消失した絵画については、当初予定していた文献資料に重複した内容のものが多く、数枚のスナップ写真の中に確認できる作品図像の痕跡から画像処理を施し、可視化できる部分においては原画に近い形で再現した。しかし図像の欠損部分に関しては、檀家衆等のヒヤリングに依存する部分もあり、参考画像として、御本尊背面に現存する壁画、村上市にある専念寺の襖絵の図像と筆運を参考に再現した。理由としては、現存する壁画に関しては消失した作品と同年代のものということは文献により把握できたため、天女が中心の図像ではあるが近似する描画対象(題材)と彩色方法が存在しているため、その技法を再現することした。また、専念寺の襖絵に関しては、現在残存している壁画と創設時期が近く、題材も同一のものであったため、作品構成上の様式や構成方法に関しては、この襖絵を参考に再現した。 しかし、天子像を安置する台座部分の壁画に関しては、カルファタ合板を採用した時に生ずる問題点の改善策を見出すのに時間を要し、基底材の制作のみの段階までとなっている。それに現状では天子像奥の再現壁画は、仮設置の段階であるため、簡易的な建具による設置にとどまっている。今後それら固定材の開発も視野に入れて研究を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
支持体研究としてある程度の方向性が定まった箇所は、2020年内に試作壁面7面と、本殿太子像下の壁面装飾2面を完成させる。その制作工程と並行して、拝殿上部の壁面における支持体の選定と試験的設置も2020年内に進め、2021年には上部の新作壁画に従事し、2023年を目安に作画も含め研究成果物を弘長寺に設置する。その後弘長寺の拝殿壁面に関しては、経年変化を観察するための実証研究の段階に移行し、その他の壁面に関しては、その研究成果の実践方法としての制作も視野に入れている。 また、描画方法の研究としては、材料研究として、2020年に制作する試作作品で、耐久性、ローコストに主眼を置きた描画材の選定を行い、図像表現としては、阿弥陀経の浄土宗の解釈を基本として、知恩院「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」知恩院「阿弥陀経曼荼羅図-億想」法然院「聖衆来迎図」貞照院「観無量寿経変相図」の図像をもとに造形的なフォルムを再構成し、描画表現を試みる。その仮設置の図像デザインを基調資料とし、拝殿上壁面の新作壁画の下図を完成させる。また、下図制作にあたり、知恩院(京都)、平等院鳳凰堂(奈良)、禅林寺(京都)、法然院(京都)、貞照院(愛知)、専念寺(新潟)の図像を参考にしながら制作する必要があり、現地視察を要する。 また、教義を説く図像としての要素を加味したいという地域の要望から、図像内容に関しては試作壁面と同様に住職、檀家衆から継続したヒヤリングを実行し作画にあたることとする。 最終的な研究成果物の発表の場所として弘長寺はもとより取り外し可能な工法を採用した利点を生かし、美術館を使用しての再現展示も最終年度に計画しており、研究成果も文献資料としてまとめ、併せて成果発表をする予定である。また、SNSなども活用した研究成果の公開も現在、検討の段階にあり、どのような発信方法が有効な手段か精査し活用する予定である。
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Causes of Carryover |
試作壁面の段階において、当初予定していた基底材に掛かる費用の見積もりよりやや高くなることが判明した。今年度の試作段階を終え、今年度は基底材費用の捻出が多くなると予想されるため、上記金額を、次年度使用額として持ち越すこととした。
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