2020 Fiscal Year Research-status Report
精神療法の成立と展開における宗教動態との接点および影響関係の研究
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19K00272
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Research Institution | Japan Health Care College |
Principal Investigator |
森口 眞衣 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (80528240)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 精神療法 / 宗教的実践 / 補完代替療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度において得られた研究成果は以下のとおりである。 (1)ヨーガの体操化/医療化現象との関連:19世紀後半~20世紀前半にかけてインドから欧米へ進出した「ヨーガ」は宗教体験としての位置づけから、しだいに臨床応用を意識した体操化傾向、および自己実現ツールとしての瞑想化傾向が生まれている。対抗文化の基盤として多様化したのちに宗教色を調整する医療化が進行した一連の経緯が「マインドフルネス」開発の社会的背景として機能した可能性を検討した。 (2)文化的ブームと医療化の相互関係:文化的閉塞感が存在する状況で新文化のブームやそれを基盤にしたムーブメントが発生した場合、医療分野では従来の治療法に代替しうる可能性を模索する動きとしてそれらを取り入れた新しい治療法開発が促進される可能性が想定される。20世紀後半にWHOが「伝統医学」のプログラム化とプライマリ・ヘルス・ケア戦略を打ち出したことで宗教的関連を持つ医療技術に注目が集まるに至った一連の経緯には、アメリカを中心とした対抗文化ブームと代替医療ムーブメントの影響が背景として機能した可能性を検討した。 (3)森田療法成立土壌との関連:上記(1)(2)の現象について、森田療法の成立前段階において霊術ブームと迷信撲滅運動が展開していた日本社会での動態と比較することにより、現段階での仮説を整理している。 上記成果のうち、とくに(1)は精神療法としての「マインドフルネス」開発の土壌となる現象を扱っており、森田療法の成立経緯と比較対照する必要性が高まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は前年度に得られた成果をもとに①井上円了の「心理療法」分類研究の調査、および②森田療法開発前の日本社会(19世紀後半~20世紀初頭)における宗教動態と精神療法的宗教実践の比較調査へ本格的に取り組む予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大への対応により出張が困難となり、①②いずれについても現地文献調査や必要資料収集などの作業計画において、感染症対応状況に合わせた柔軟かつ大幅な見直しの必要性が生じたものと判断し、以下のとおり研究計画の修正を実施した。 (1)研究計画全体を対象に社会的状況を踏まえ、作業の細分化および個別計画の再構築 (2)新たな作業として③日本以外の地域における宗教動態と精神療法的宗教実践の調査を追加 上記(1)については社会的情勢に配慮して規模を縮小し、研究テーマを細分化した個別の短期調査形式とすることで作業順序の柔軟性をはかった。また(2)については当初の研究計画では次年度以降の本格化を予定していた「マインドフルネス概念の成立経緯」の背景解明として、現段階では②の遠因または類似現象の候補と考える「19世紀後半~20世紀前半にインドから欧米に進出したヨーガの瞑想化/体操化現象の歴史的経緯の整理」を前倒しで着手した。これについては20世紀後半以降の欧米における「ヨーガ医療化現象」との関連性を含めて開始し、森田療法成立期の社会的変化との比較に使用するデータとしての整理を視野に入れている。 以上の理由から、当初の当該年度研究計画としては遅れが生じたことになるものの、実施内容および順序を検討のうえ再構築することで研究全体としての進展は担保できたものと判断する。ただし社会情勢を考慮すると再構築による進行が現時点では計画全体にどの程度影響を与えるか確定できないため「おおむね順調」と位置づけた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの対応状況を踏まえて修正した研究計画を調整しつつ、現地調査や現地入手以外の形態で可能な作業を優先的に遂行する。今年度に前倒しした研究成果により、森田の周囲で当時展開されていた「精神療法」をめぐる医療および宗教に関する動態が、森田療法の位置づけと方向性にどのような影響を与えたかについての考察を当初の計画よりも前倒しで進める可能性も生じた。そこで次年度は従来より細分化した小規模調査として、以下のようなテーマを中心に、遠隔での実施が可能な資料収集と分析を中心に作業を進める予定である。 (1)日本以外の社会における精神療法の成立 (2)宗教界および医療界の相互関係 (3)有効な医療制度とその範囲外での実践との関係
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染状況の拡大に配慮しつつ、当初は研究計画にできるだけ沿った形での調整を想定し準備を進めていたが、今年度の実施として予定していた国内外での学会発表や資料調査が困難になり中止または延期を想定せざるを得なくなった段階で旅費の執行をとりやめ、複写など収集した資料の整理や購入可能な書籍資料のうち、まとまった形で発注できるものを中心に物品費として使用した。 次年度使用額はその大半が資料調査や成果発表の費用として当時想定していた旅費が中心である。引き続き感染状況の推移を注視しつつ、早期に方針を見極めて適切な執行形態の確保につとめる。
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Research Products
(2 results)