2019 Fiscal Year Research-status Report
日本近代文学と口絵・挿絵の関係の再検討を基点とする通史的・領域越境的研究
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19K00291
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
出口 智之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10580821)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒井 真理亜 相愛大学, 人文学部, 准教授 (90612424)
新井 由美 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (40756722)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 口絵 / 挿絵 / 『新小説』 / 尾崎紅葉 / 邦枝完二 / 小村雪岱 / 『福岡日日新聞』 / 『読売新聞』 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代日本の文学と美術の関係を考察することを目的とする本研究は、おもに明治期(出口智之)・大正期(荒井真理亜)・昭和期(新井(杲)由美)の形で、時代ごとに分担している。 まず、出口は明治中期における最も有力な文芸誌の一つだった第二期『新小説』について、口絵・挿絵と小説との関係を網羅的に調査し、その制作過程と機能を考察する論考を発表した。また、新聞小説の分野で活躍し、自作の挿絵に強いこだわりを持って絵師たちに指示していた尾崎紅葉に注目し、『読売新聞』に掲載された代表作「金色夜叉」の挿絵の機能を考察する論考を発表した。後者は、やはり同紙に掲載された「多情多恨」の挿絵に関する論考と姉妹篇の関係にあり、こちらは令和2年5月の発表が決定している。さらに、明治文学を多角的に検討する座談会に参加してその模様を発表したほか、4度の学会発表を行った。 荒井真理亜については、令和2年2~3月に複数の学会にて成果を発表する予定であったが、新型コロナウイルス感染症流行のためにいずれの会も中止となり、以後年度内には発表の機を得なかった。発表を予定していた研究内容については、令和2年度中の学会等の開催状況も勘案しつつ、あらためて学会発表を行うか、あるいは論文にまとめて公表することも検討している。 新井(杲)由美については、雑誌『東陽』に掲載された「挿絵座談会」を対象とし、昭和初期における挿絵の一を考察した論考を発表した。また、邦枝完二「樋口一葉」に小村雪岱が描いた挿絵の意義を考察した論考を執筆して雑誌掲載が決定した(令和2年7月公刊予定)。後者は令和元年度中に行った学会発表に基づいており、そのほかに『福岡日日新聞』紙上に掲載された小村雪岱の挿絵について考察する内容の発表も行っている。こちらの内容については、新井が編者の一人となった共著『新聞小説を考える』に論文として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各研究者が順調に研究実績を蓄積し、少なくない数の学会発表・論文発表をこなしている。2016~2018年度に出口が研究代表者をつとめ、荒井真理亜も参加して行われた科学研究費補助金基盤(C)「日本近代文学と絵画のジャンル横断的交流に関する総合的研究」の成果を発展的に継承する形で行ったため、スムーズに研究成果を積上げ、発表することができた。特に、明治期の第二期『新小説』と『読売新聞』、昭和初期の『福岡日日新聞』における口絵・挿絵の機能に関する出口・新井の論考は、従来見過されてきた角度から文学作品と絵画との関係に迫ったもので、「金色夜叉」のような有名作ですらも捉えかたを刷新する、大きな進捗が得られたといえる。その点に関して言えば、申請時当初の計画以上に進展していると評価してよい。 一方、冬から年度末にかけて新型コロナウイルス感染症が流行したため、大正期を検討対象とする荒井の研究成果が発表できなかった点は残念だった。しかし、これはあくまで発表の機会を逸したにすぎず、研究自体は順調に遂行されているため、令和2年度中に何らかの形で発表できる可能性は高く、研究計画全体の進捗にマイナスの影響を及ぼすようなものではない。 三者が合同で行っている信州大学蔵の石井鶴三来翰集の調査については、夏と冬の2度、全員が参加して調査を行い、木村荘八からの来翰の翻字に着手した。しかし、その全体数すら不明な中で調査に着手したところ、荘八からの来翰は100点以上の多数にのぼり、またきわめて長文の書翰が多数存在すること確認された。鋭意翻字につとめ、すでに3分の1程度の仮翻字を終了しているものの、かかる状況からいまだ成果の発表にはいたっておらず、また3月に予定していた3度目の調査も中止を余儀なくされた。この調査研究については、令和2年夏以降、社会状況の推移を見極めながら継続してゆきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、三者が共同で行う作業として、石井鶴三関連資料の調査・研究を継続して進める。令和元年度より対象としている木村荘八は、昭和初期に挿絵画家として多方面で活躍した重要な存在であり、おなじく挿絵界の大家であった鶴三との交流の状況が未公刊の一次資料によって明らかになる意義は大きい。ただ、新型コロナウイルス感染症の流行状況が見通せないため、場合によっては資料のデジタル画像化を進め、なるべく集まらない形での調査を行うことも視野に入れて研究を推進したい。 個別の研究としては、出口は令和元年度にも扱った尾崎紅葉について、親しかった絵師の武内桂舟との関係を未発表の書翰等から検討する予定を立てている。当該書翰はすでに古書店より入手して出口が保管しており、出向しての調査を要さないため比較的容易である。また、おなじく令和元年度に紅葉「多情多恨」を考察する過程で浮上した、新聞・雑誌連載が単行本にまとめられる時に起る口絵・挿絵の変化について、半井桃水などの例を取上げて検討することを予定している。 荒井は、すでに令和元年度中にかなり進展した『大阪毎日/東京日日新聞』の調査を完了し、社外の絵師を起用した柳川春葉作・鰭崎英朋画「生さぬ中」や、東京と大阪で異なる絵師を起用した菊池幽芳訳「女の行方」(大阪では名越国三郎、東京では水島爾保布)などを取上げ、具体的な検討を進める予定である。 新井は、大佛次郎作・木村荘八画「霧笛」、長谷川伸作・木村荘八画「荒木又右衛門」など、荘八が挿絵を描いた一連の大衆向け新聞小説を取上げ、石井鶴三来翰集に含まれる未公刊の荘八書翰調査の結果とも結びつけつつ検討を進める。また、すでに令和元年度に発表した小村雪岱に関する研究をさらに進め、舞台装置家としての活動に注目して舞台装置との比較検討も進める予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年3月に予定していた信州大学蔵石井鶴三関連資料の調査が、新型コロナウイルス感染症流行のために実施できず、旅費が支出されなかった。また、同調査にはプロジェクトメンバー以外の研究者も招聘予定だったが、その旅費・人件費もおなじく支出されなかった。 この次年度使用額については、令和2年度中に行う予定の同調査にて執行予定である。
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Research Products
(12 results)