2019 Fiscal Year Research-status Report
「思想としての俳諧史」構築のための基礎的研究ー支考と蝶夢を軸にー
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19K00294
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
中森 康之 豊橋技術科学大学, 総合教育院, 教授 (80320604)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 芭蕉 / 思想 / 支考 / 俳諧 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間全体における本研究の目的は、芭蕉・蕪村・一茶を頂点とする作品(発句)中心主義の誹諧史を、「思想としての俳諧史」へと再構築することによって、「俳諧とは、人間にとってどのような意味と価値を 持つ言語行為なのか」という俳諧の本質を明らかにしようとするものである。その手がかりは、芭蕉自身の俳論俳話、支考の俳論(『俳諧十論』『葛の松原』など)、土芳や去来の俳論、蝶夢の俳論等である。 その初年度にあたる2019年度は、支考『葛の松原』における芭蕉の古池句の誕生物語の再評価を行った。古池句は支考が「蕉風開眼の句」として喧伝し、世に広めたことは知られている。しかし、肝心の「蕉風開眼」の意味や、支考の古池句に関する解説は、これまで否定的に見られてきた。 そこで、『葛の松原』における古池句に関する支考の文章を解読した。その結果、これまで言われてきたように、『葛の松原』は芭蕉の意を無視したものでも、でたらめな「空想」でもなく、入門後に交わされた芭蕉との対話を見事にまとめたものであることが明らかとなった。更に言えば、その頃の芭蕉の最大の関心事を深く受け取り、それが古池句にあてはまることを支考が見抜き、解説したものだったのである。その意味で、『葛の松原』古池句物語は、芭蕉の俳諧の本質を深く理解した支考によって、古池句が再評価されたものであり、芭蕉自身もそれを深く納得したものだったのである。 以上のことは、「思想としての俳諧史」という視点を置いたからこそ可能になったものである。誰もが知り、関心を持つ古池句の新しい見方の提示は、「思想としての俳諧史」構築の重要性と意義を示す契機となったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『葛の松原』における支考の古池句物語を解読し、そこにすでに支考が芭蕉から教えられた思想としての俳諧の本質が語られていることを明らかにできた。これは、2020年度から開始予定で、本研究全体で最大の仕事となる『俳諧十論』の全注釈にスムーズに繋がる成果である。すでに『俳諧十論』「序」の注釈作業を始めているが、2019年度の成果が非常に生きていると考えられる。 そのため、「(2)おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り進める。 今後はまず、『俳諧十論』の注釈作業を始める。よりよい成果をあげるため、既に関心のある研究者に声をかけて研究会を組織した。またその成果を逐次公表しながらフィードバックを得る。それにより、最終的に『俳諧十論』の注釈を完成させたい。 またそれと平行して、古池句についての支考の論をさらに考察し、芭蕉の俳諧がそれまでの俳諧と何が決定的に違っていたのか、芭蕉の俳諧が文学(詩)といえる根拠等についても明らかにする。 これは基本的には独力で行うが、必要に応じて上記研究会や学会発表を通して、フィードバックを得たい。また俳諧研究者以外の研究者、特に近世の周辺領域、哲学・思想研究者と意見交換をしながら進める予定である。
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Research Products
(2 results)