2021 Fiscal Year Annual Research Report
戦後大阪の夕刊紙・華僑メディアと文学サークル・在日文学
Project/Area Number |
19K00295
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宇野田 尚哉 大阪大学, 文学研究科, 教授 (50324893)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 『国際新聞』 / 華僑メディア / サークル文化運動 / 在日文学 / 金時鐘 |
Outline of Annual Research Achievements |
占領下の大阪で1945年10月に創刊された華僑系新聞『国際新聞』は,戦勝国のメディアとして大量の用紙を確保できるという利害と絡まり合いながら展開し,経営が日本人の手に渡る危機を乗り越えて,1948年半ばには華僑メディアとしての実質を具えていった。その後中国において国共内戦が共産党優位で推移すると,国際新聞社内では新中国への共感が高まり,『国際新聞』はpro-communist的傾向をもった戦勝国メディアという独自な性格を持つに至る。とくに朝鮮戦争が勃発して『アカハタ』『解放新聞』『華僑民報』などが停刊処分になると,その独自性は際立つことになった。 『国際新聞』は,冷戦構造に規定されたさまざまな分断線を跨ぐような報道を行った点を特徴とする。朝鮮戦争が休戦を迎え,時代の論理が戦争と革命から平和共存へと転換していった際には,『国際新聞』は,この転換を象徴する中国紅十字会代表団の来日を報じるなど,重要な役割を果たした。このようにして,時代の課題が,戦争に勝利することや革命を実現することから,平和共存の枠組のなかで体制選択競争に勝利することへと移り変わるなかで,『国際新聞』は,中華人民共和国を支持し朝鮮民主主義人民共和国に共感を寄せる立場から,分断線を跨ぐ報道を行い,在日華僑の置かれている状況だけでなく在日朝鮮人の置かれている状況をも照らし出す役割を果たし,在日朝鮮人に発言の機会を与えるメディアともなった。 また,『国際新聞』は,戦後大阪における革新系文化運動とも関係が深く,同紙文化欄は戦後大阪のサークル文化運動に関する貴重な情報を豊富に含んでいる。とりわけ,当時発言の場を持たなかった在日朝鮮人の青年たちに発言の場を与えその文化的営みをサポートした点は特徴的であり,若き日の金時鐘をはじめとする在日朝鮮人青年たちの同紙における表現活動は在日朝鮮人文学の忘れられた水脈の一つの評価することができよう。
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Research Products
(1 results)