2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K00297
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
中島 貴奈 長崎大学, 教育学部, 准教授 (10380809)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本漢文学 / 高啓 / 六如 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に基づき、今年度は主に①江戸時代から明治期の日本における高啓詩文集の編纂・出版の状況、②六如『葛原詩話』に見られる高啓詩の引用、③明治以後の高啓受容の状況、の3点から研究を行った。 ①については、江戸から明治にかけて日本で出版された高啓の詩文集を整理し、主として巻頭に付された序文や例言等の内容をもとにその出版背景について考察を行った。多く述べられていたのは、高啓の『高太史大全集』や『高青邱詩集注』が普及しておらず、見ることが難しい状況にあったという点である。大庭脩氏の『江戸時代における唐船持渡書の研究』によれば、選集ではない高啓の全集としては、1733年(享保18)『高季迪詩』一部三本、1759年(宝暦9)『高季迪集』十部十套、1782年(天明2)『高季迪詩集』清金檀輯注 同十本といった記録がみられるものの、数としては確かに多いとは言えない。 ②については、高啓受容の早い例と考えられる僧六如の『葛原詩話』『葛原詩話後編』に引用される高啓の詩句を抜き出し、考察した。『葛原詩話』では13項目において16首、『葛原詩話後編』では12項目15首の高啓詩句の引用が見られた。これは、南宋期の陸游や楊万里といった詩人たちに次ぐ多さであると考えられる。さらに、六如が高啓のいずれの詩集を見ていたかについては、詩句の引用と共に金檀注が引かれていることから、『高青邱詩集注』(①の『高季迪詩集』)である可能性が高いことが分かった。 ③については、先行研究の収集により、想定したよりも多くの文学者に高啓が愛好されていた可能性のあることが分かった。また、文学者への影響のみでなく、田岡嶺雲や久保天随らの高啓評からも当時の高啓のイメージが読み取れることから、文学史や評伝等も参考資料となりうることが分かった。また時代はずれるが、江戸以前五山の時代においてもその影響が指摘されていることを知った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
すでに収集済みの資料を利用しての研究については、計画通り順調に進めることができた。当初の目的であった日本で出版された高啓の詩文集の出版背景について、序文等をもとに明らかにすることができた。また江戸時代においていち早く高啓詩を摂取したと考えられる六如についても、その著書『葛原詩話』から、見ていた高啓の詩文集に見当がつけられたことは、今後の研究に大きく寄与するものである。しかしながら、こうした成果について論文にまとめ公開するに至らなかった点は、不十分であった。 また、新型コロナウィルスの流行下にあり、出張による移動が制限されたことから、当初予定していた資料収集が行えなかった。近代文学者に関する資料が十分に収集できなかった。高啓詩の和文訳等、参考にしたい資料は少なく無い。 以上のことから、全体としてはやや遅れていると判断をした。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは2020年度の研究内容①江戸時代から明治期の日本における高啓詩文集の編纂・出版の状況について、すべての日本で出版された高啓の詩文集全ての序文等を読み、整理をして、論文にまとめ公開する。 ②六如『葛原詩話』に見られる高啓詩の引用、については、さらに六如の詩や、同時代の中島棕隠の詩文と合わせて考察をおこない、この時期高啓に注目した理由やどこを評価したのかについて明らかにする。松下忠氏『江戸時代の詩風詩論―明・清の詩論とその摂取』では、六如や棕隠以前の江戸の漢学者による、明清の詩論を通じた高啓の影響が指摘されているが、それらと質的にどう異なるのかも明らかにしたい。 明治以降の影響についても、引き続き和文訳や評伝等の資料を収集するほか、先行研究で指摘のあった五山の僧侶への影響についても調べる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由のひとつは、所属機関から出張による移動が制限され、予定していた資料の収集が出来なかったこと、またすべての学会等がオンラインでの開催となったため、旅費の使用が生じなかったためである。さらに、年度末体調不良による入院をしたため、研究が一時的に行えず、予定していた物品購入ができなかったことも理由のひとつである。 今後資料収集や学会参加のための移動が可能になるかは分からないが、資料収集についてはデータや紙媒体での取り寄せを活用して助成金を使用する。また、近代の資料については古本等で購入の可能なものがあると分かったため、高啓の詩文集をはじめ関連資料の購入を検討したい。
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