2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00297
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
中島 貴奈 長崎大学, 教育学部, 准教授 (10380809)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 高啓 / 和刻本 / 訓読・訓点 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、昨年度からの継続である「①江戸時代から明治期の日本における高啓詩集の編纂・出版の状況」に加え、「②高啓詩集和刻本の比較」「③高啓詩集の伝播状況」について調査・研究を行った。
①②について:江戸時代から明治期にかけて出版された高啓の和刻本について、詩題や詩句の異同等から検討を行った。最も出版年の早い仁科白谷編『高太史詩抄』のみが「大全集」を底本としており、詩の内容を理解した上で独自に順序を入れ替えて編纂されていることが明らかになった。高啓の和刻本の出版に関わったのは仁科白谷・菊池渓琴・斉藤拙堂・梁川星巌・広瀬旭荘・中島棕隠といった漢学者たちであったが、特に白谷・渓琴・拙堂・星巌には非常に密接な交流関係のあったことがわかった。互いの作品に付した評語等にも高啓への言及が見られることから、彼らの交流関係における高啓への関心が、和刻本の連続した出版や、高啓詩愛好への流れにつながっていたことは明らかである。六如・棕隠も含めた交友関係と高啓詩の受容については、いっそうの精査を行いたい。一方で、和刻本に付された訓点を比較したところ、諸本によって異なる箇所が散見された。訓点の違いには、詩句の解釈や文法上の問題などが反映されると考えられるため、この点についてはさらに詳しく考察を行いたい。
③について:主立った図書館等の目録を用いて「高青邱詩集注」(以下「金檀注」)及び「高太史大全集」(以下「大全集」)の所蔵を調査したところ、「金檀注」に比して「大全集」の所蔵は非常に少ないことがわかった。諸本の来歴、旧蔵者や書き入れ等についてはなお調査が必要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
和刻本諸本の比較や底本の検討などについては計画通り研究を進め成果を得ることができた。一方で、底本の検討にあたり最終的な決め手となる漢籍の調査については、計画通り進めることができなかった。高啓関連の和刻本に関してはその多くがデジタル化されておりネット上で閲覧することが可能であるのに対し、中国で出版された詩集のほとんどはデジタル化されていないため所蔵機関に赴いて調査する必要があるが、2020年度以降出張調査が難しい状況が続いていることが原因である。また、これまでの調査研究の成果を論文として発表することもできなかった。 以上の点から、「やや遅れている」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き和刻本諸本の訓点比較を最後まで行い、問題点を明らかにした上で考察を行う。訓点の比較にあたっては、和刻本編者個人の詩集等の訓点も参考に進めていきたい。高啓の和刻本はいわば「仲間内」で出版される状況にあったと推察されるが、なぜその中で「訓読」の違いが生まれたのか考察する。 また、六如にはじまる交友関係と、江戸時代後期から明治期にかけての高啓詩流行との関連について、これまでに明らかになったことをまとめ、口頭発表と論文による発表を行う。 その上で、漢詩作品に見られる高啓詩の影響については、個々の漢詩人・文学者ごとに検討を行ってゆく。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の流行により、調査のための出張が全くできなかったため。 次年度には各地に所蔵されている森槐南や鴎外等旧蔵の高啓関連資料調査のため、出張を行う予定である。
|