2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00299
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小林 直樹 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40234835)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 無住 / 宗鏡録 / 源実朝 / 栄西 / 寿福寺 |
Outline of Annual Research Achievements |
無住の著作『沙石集』は延寿の主著『宗鏡録』の強い影響下に成立しており、作品の随所にその投影が認められる。電子データベースの整備により、当該箇所の検索自体は比較的容易になったが、研究上肝要なのは、そこから何を読み取るかであろう。今年度はそうした研究アプローチの一環として、『沙石集』の源実朝関連記事における『宗鏡録』受容について若干の考察を行った。 『沙石集』の実朝関連記事で『宗鏡録』の投影が認められるのは2箇所である。一つは巻3-3に収載される、実朝が上洛の予定を、臣下の諫言によって翻意し、万人から歓迎されたという逸話である。実朝の名君ぶりを称揚する説話であるが、その末尾に「聖人ハ心ナシ。万人ノ心ヲモテ心トス」という金言を引き、人びとの願うところを実現する政治を行うのが「聖人」の姿であるとして、撫民を実践した実朝を「聖人」と重ねている。この金言は『老子道徳経』に淵源するが、無住は直接的には『宗鏡録』を参照した可能性が高い。無住の尊重してやまない『宗鏡録』由来の金言を以て称揚するところに、無住の実朝への高い評価が窺えるのである。 もう一話は、巻5末-5に所収される、実朝が「ナルコヲバヲノガ羽風ニマカセツツ心トサハグ村スズメ哉」という「フカキ心」のある歌を詠んだという挿話である。ここで、「フカキ心」の説明にあたって引かれる「古人」の言葉「万法本閑ナリ、人自ラ鬧シ」が『宗鏡録』に由来する。『宗鏡録』の当該箇所の前後では唯識的世界観が説かれており、それは『沙石集』の本話の文脈とも一致する。すなわち、実朝の「フカキ心」とは唯識の意と推察されるのである。このことは、本伝承歌が実朝と結びついた環境をも想定させる。その伝承空間は、実朝の師にして『宗鏡録』を披見したことが確実な入宋僧・栄西を開基とし、若き日に無住も修学を行った鎌倉寿福寺であった可能性が高いのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度より勤務先で研究科長(学部長)を務めることになり、通常業務に加え、大学統合に伴う諸準備も重なり、まったく研究に時間を取ることができなくなってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も研究科長(学部長)の任期2年目にあたり、依然、研究時間の確保は非常に困難であるが、そうした中でも、無住の著作における『宗鏡録』をはじめとする宋刊仏書の影響箇所についての調査を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
年度内に支出する適切な対象が見出せなかったため、次年度に繰り越し、より有益な用途に使用したい。
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Research Products
(1 results)