2019 Fiscal Year Research-status Report
日張山青蓮寺所蔵史料を基盤とした中将姫説話の受容に関する研究
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19K00301
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Research Institution | Bunkyo University |
Principal Investigator |
日沖 敦子 文教大学, 文学部, 講師 (30448708)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 説話 / 縁起 / 寺社 / 中将姫 / 当麻曼荼羅 / 青蓮寺 / 袋中 / 近世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、千年以上の時を経て存在する当麻曼荼羅(観経曼荼羅)とその由来を伝える中将姫の奇跡が、多くの人々に信じ続けられ、語り継がれてきたという信仰的事実に注目する。中でも本研究の核となるのは、中将姫が捨てられた日張山説話で知られる青蓮寺(奈良県宇陀市)の史料群(仏像、仏画、経典などを含む)である。 今年度は、まず昨年までに行った調査の過程で、特に重要と判断した写本を元興寺文化財研究所へ依頼し修復した。虫損や水損によってかなり困難な修復作業となったが、無事修復を終え、錯簡を正し、綴じることができた。当史料は、近世の中将姫説話研究において、重要な史料と判断されることから、全文の紹介とあわせて今後の研究に役立てていきたい。 青蓮寺については、中将姫説話研究のうえで、極めて重要な寺院でありながら、歴代住職を含め、これまで寺史の詳細が殆ど明らかにされてこなかった。そこで、青蓮寺において中将姫説話がどのように展開してきたかを検討すべく、昨年度までの調査で確認し得た諸史料をもとに、主に17ー18世紀の大まかな青蓮寺の寺史を整理した。さらに、所蔵する17―18世紀にかけて制作された絵巻と絵伝の制作背景についても検討し、詳細を論じた。 その成果は「『日張山青蓮寺縁起』の制作とその背景」(『日本宗教文化史研究』23―2号)、および「中将姫の九百五拾年忌―青蓮寺蔵『中将姫御画伝』の紹介を兼ねて」(『伝承文学研究』68号)にまとめた。さらに、これまでの研究成果をまとめ一般書として『時空を翔ける中将姫―説話の近世的変容』(平凡社)を刊行した。当書には、青蓮寺に関する調査の最新成果を盛り込んだ。今後の研究に繋げていきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先に述べたように、写本の修復に際し、錯簡が生じていることも明らかとなり、思ったよりも修復の完成までに日数を要した。しかし、この修復により、判読不能だった大部分の箇所を読み取ることができるようになった。修復期間もあり、その全体的な翻刻の完成には至らなかったが、それは今後の課題として進めていきたい。また新型コロナウィルスの影響で、年度末の調査が遂行できず、見送らざるを得なかった。 しかしながら、全体的には、青蓮寺所蔵史料の調査を踏まえ大まかな寺史を整理し、一部の史料については、著書や論文を通して年度内に広く紹介することができた。よって、概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、新型コロナウィルスの影響で調査が遂行できない状況にある。そこで暫くは、修復した写本やそのほかの史料の精読を中心に進めていく予定である。 また、境内の石造物等についても、中将姫説話の信仰圏を考える上で注目できるものがある。説話の内容的な研究に限らず、中将姫説話がどのような人々によって、求められ、語られていたか、どのような信仰を集めていたのかという点についても調べを進めていきたい。 さらに、昨年度修復した写本のほかにも、中将姫説話研究において重要であると判断した写本がある。その写本も虫損や水損が酷く、現状では全体を読み解くことが難しい。今年度も引き続き元興寺文化財研究所に御力添えいただき、修復を順次進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
①新型コロナウィルスの影響で2020年以降の調査が延期となったこと。②調査の過程で写本等の修復を行う必要が生じ、現在調べを進めつつ、写本類の修復を 並行して行っており、次年度以降へ経費の一部を繰り越す必要が発生したこと。以上の理由から、次年度使用額が生じる結果となった。 調査については、新型コロナウィルス感染拡大の問題が収まり次第、精力的に進めていきたい。また修復については、今年度以降、引き続き調査を進め、優先順位を検討したうえで、予算上可能な範囲で迅速に進めていきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)