2020 Fiscal Year Research-status Report
平安時代文学における唐文化の受容と「国風文化」の生成に関する基礎的研究
Project/Area Number |
19K00318
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
渡辺 秀夫 信州大学, 人文学部, 名誉教授 (90123083)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 平安朝漢文学 / 和漢比較文学 / 唐文化の受容 / 国風化 / 賦学 |
Outline of Annual Research Achievements |
9世紀後半~10世紀初頭は、中国文化摂取の円熟黄金期であり、「唐文化」の基幹的な文物の大要を移入・受容し、それを十分に咀嚼しうる状況が用意された。これを機に、平安文学の国風化が大きく促進されることとなるが、この文化現象を究明するためには、「渡来漢文世界」に加えて、その受容のフィルターとして機能する「王朝漢文世界」の存在を前提とする「和漢比較的な視野」が不可欠である。 ①「王朝漢文世界」を抜きにした「国風文化論」は成立しないこと。②外来品の移入がどんなに盛んでも、それだけでは「国風文化」批判になりえないこと、すなわち、③摂取・受容・変容の具体相を実証的に検証することが不可欠なこと。とりわけ、④平安時代の儒者たちの知識体系の復元が肝要なことが、明確化された。具体的には、平安中期以降、「王朝漢文世界」は、自前の「遺産」を古典化(オーソライズ)し、外来の「中国文学」を必ずしも絶対的なものとせず、この遺産的成果・伝統を活用した自立的な表現世界を豊かに展開してゆくが、その中で、本課題に関わる七言律詩形式の本朝独自の《句題詩》が生まれた。現在までの検証によれば、①唐伝来の科挙の指南書『賦譜』は、わが国9世紀後半以降の、唐代の律賦に倣った賦を創作するための規範モデルとなった可能性が高い。② 唐代の科挙詩賦の影響が指摘される《句題詩》を、『賦譜』の題詠論を指標として分析してみると、《句題詩》の表現様式は、中国詩賦の表現技法に深く学んだ中から周到に計算され創出されたことが推測される。平安中期以降南北朝期まで、永続的かつ大量に詠み継がれた《句題詩》の存在は、その文学史的実態に沿って正当に評価されるべきであること。この意味で、平安(中)後期の「王朝漢文学」の趨勢を「衰退」とする旧来の通念的な評価認識は、修正されなければならないことなどが、さらに明確化された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①本研究課題に関わる研究論文「唐文化の受容と国風文化の創出―唐伝来の賦格『賦譜』からみた平安朝漢詩《句題詩》の生成」の草稿を、ほぼ8割方まとめた(約41,000字)。 ②他方、中唐末成立の『賦譜』(9世紀半ばに将来)の平安末期写本(五島美術館蔵)の注釈的作業は、異本もない孤本であり、かつ魯魚の誤り・省略などの本文的問題に加え、語彙の特殊性もあり、遅々として進まない。③新型コロナ禍の収束しない状況下、所期の海外調査の機会が奪われ、北京始め、台湾地域での文献収集が行えず、この面での進捗の障害となっている。④その一方、国内外の学会等が一様にリモート開催となったことは、上記の不自由を超えた、新たな情報交換・発信のツールとして、予想外の効能をももたらした。「平安文学における唐文化の受容と国風化―唐伝来『賦譜』と王朝漢文学―」(「ミニ・シンポジウム「国風文化」の再定義にむけて」2021年3月27日・基盤研究(B)「平安時代の「国風」的文化現象についての発展的学際研究」代表:佐藤全敏・ZOOMによる国際会議・国内外170名参加)は、その一例であり、この古代史・歴史学関連の多分野の研究者を対象とするシンポジウムでの発表は、「狭い国文学の枠」を超えた研究者群に向き合うことで、従来の認識を更新した新たな視野が拓かれる機会となった。これらの成果をもとに、さらに研究の進度を加速させたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
①本研究課題に関わる研究論文「唐文化の受容と国風文化の創出―唐伝来の賦格『賦譜』からみた平安朝漢詩《句題詩》の生成」の草稿の完成を急ぐこと。なお、本稿は、『万葉集研究』第41集(塙書房・2021年12月刊行予定)に掲載される。 ②『賦譜』の注釈作業を可能な限り推進することに努力するが、なお予断を許さない。この課題の進捗のためには、中国の賦学研究の成果を大いに参照することが不可欠ゆえ、リモートによる研究交流の道や「中国網等」のツールを積極的に活用して努力したい。 ③当初の計画から実現可能性の高いものに集約して、着実な成果を上げることに努め、残余の課題については、新たなプロジェクトに繋げられるような構想・企画を練ることとしたい
|
Causes of Carryover |
新型コロナ禍の蔓延により、当初計画にあった国内外旅費の執行ができなかったことにより、使用額に余剰が生じた。次年度に繰り越すことで、不十分であった調査旅費等の経費に充てる。なお、依然としてコロナ禍の状況が改善されない場合は、有益な図書資料等の購入等に活用することとする。
|
Research Products
(2 results)