2020 Fiscal Year Research-status Report
新資料・旧蔵資料による『種蒔く人』主要同人今野賢三の研究
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19K00324
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
高橋 秀晴 秋田県立大学, 総合科学教育研究センター, 教授 (40310982)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 今野賢三 / 小牧近江 / 金子洋文 / 種蒔く人 / プロレタリア文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、今野賢三と『種蒔く人』の同人たちとの関わりについて検証した。例えば、『秋田県労農運動史』(同刊行会、1954年)の前篇「労働運動篇」の中で今野は、フランス帰りの小牧近江を八郎潟町一日市の有志が三倉鼻に招いたことについて詳述している。この歓迎会において「赤光会」の発会式をしたのだが、村長や有力者らが、そうした事情を全く知らずに参加している様子を、風刺を利かせて描いているのだ。 後篇「農民運動篇」では、一日市の小作人組合を作る運動が成功したのは「頭脳だけの社会主義者ではなく、もつとも地に足のついた農民運動者としての将来を約束された有数な人物」である畠山松治郎が中心となって指導したからだ、という見解を示している。 また、今野は、1928年に起きた一日市の小作争議について、秋田区裁判所の後藤判事による不眠不休の調停によって辛うじて和解に至ったと伝えているが、金子洋文の代表作「赤い湖」(『改造』第10巻第12号、1928年)では、「小さい一枚の立入禁止の立札が、百姓の心臓をつらぬくように田につきさゝれた。」と描かれ、裁判が進むほどに小作側が不利になっていったことが組合の決起を促す、という構図になっていた。二人の資質の違いが端的に表れているわけだが、今野の綿密な取材と調査が盟友洋文の創作部分を明らかにする結果をもたらしたとも言える。 以上、今野賢三旧蔵資料、小牧近江新規寄託資料、金子洋文寄贈資料の分析を通じて、今野と他の同人たちとの交流状況及びその意義を巡って、今まで知られていなかった多くのことを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、秋田県外の文学関係者からの書簡類の分析を行い、今野賢三との関わりについて調査を進める予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大によって、県外での調査活動が十分にできなかった。 そのため、2021年度に実施する予定だった秋田県内の関係者との交流状況についての調査・分析・考察を行い、その成果を「潟の文学散歩-八百年の時空を巡る」(『秋田魁新報』土曜文化欄、2020年4月~現在)において発表した。 以上のことから、本研究の進捗状況について、「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に進める予定であった今野賢三と秋田県外の文学関係者との関わりについての調査に着手する。 また、2021年度は『種蒔く人』創刊100周年に当たり、記念論文集『『種蒔く人』の射程-一〇〇年の時空を超えて』が刊行(2021年9月)される予定であるため、本研究の成果に基づいた今野賢三論を執筆する。 なお、2021年度も、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、取材、文献調査、学会参加・発表等に支障を来す危険性がある。研究計画を変更するなど、臨機応変に対応したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、県外での取材・調査ができなかったことに加え、学会等がオンライン開催となったため旅費がかからず、支出が減った。 2021年度は、『種蒔く人』創刊100周年記念事業(講演・シンポジウム・研究書出版)が行われるので、その実行のために使う予定である。
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Research Products
(3 results)