2021 Fiscal Year Research-status Report
新資料・旧蔵資料による『種蒔く人』主要同人今野賢三の研究
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19K00324
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
高橋 秀晴 秋田県立大学, 総合科学教育研究センター, 教授 (40310982)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 今野賢三 / 小牧近江 / 金子洋文 / 種蒔く人 / プロレタリア文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、今野賢三が、雑誌『種蒔く人』を通じて遂げた変容について考察した。調査の結果、賢三にとって初めての政治的体験が、「対支問題(中国問題)国民大会」(1913年9月7日)後の検束・拘留であったことが判明した。偶々デモ隊の先頭になってしまっただけであるにもかかわらず、殴る蹴るの暴行を受けた末に麹町署に連行され、取り調べもないまま29日間拘留された賢三は、権力の濫用に憤りそれに対する叛逆を決意する。 とは言え、当時の賢三は、「勞働者生活の、如何に暗黒に滿ちてゐるものであるか、機械になりきつて、生涯浮ぶ瀬のないものであるか、世の中の下積みの人間は苦難ばかりに、いつまで埋れてゐなければならないか、何時になつたら完全に、あのかゞやかしい太陽を、自由に、平等に、まともに仰ぐ日が來るのか?」(「説明者時代物語」、『演劇・映畫』第1巻第6号、1926年6月1日)という回想から窺えるように、労働者であることを否定的に捉えていた。より芸術的な生活を求めて活動弁士となるが、その仕事にも疑いを持つようになり、最終的に文芸に生きる決心する。その前後に『種蒔く人』が創刊されたのだった。 この雑誌に発表された賢三の小説(「路傍の男」「おい! 仲間」「火事の夜まで」等)は、労働(者)への寄り添いと尊重をテーマとしている。また、評論(「第三者として―讀賣紙掲載菊池寛の一文―」「新しき藝術青年に檄す」等)においても、「プロレタリア芸術戦士」としての立場を貫いている。 以上、書簡・日記・草稿メモ等を参考に、賢三が『種蒔く人』への創作・評論の発表や編集・発行・印刷の業務を通じて自身の在り方を発見していった経緯を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、書簡・自筆原稿・草稿の分析を通じ、今野賢三の創作意識と作品の生成過程について考察する予定であった。新型コロナウイルスの感染拡大によって県外における調査活動は十分にはできなかったが、県内の資料に関する調査はほぼ予定通りに進めることができた。 その結果、賢三作品の殆どが実体験や歴史的事実に基づいていることが明らかとなった。賢三に関する事実関係がわからなかったために判断できずにいたが、彼の書簡や日記、草稿メモ等を照らし合わせると、現実にあった出来事を忠実に再現する中に心理描写を織り交ぜるという形をとっていることが明白となった。「暁」三部作(『闇に悶ゆる』『薄明のもとに』『光に生きる』)にしても、自身の青春の日々をトレースしたものであるし、その延長線上に中期の歴史小説(『黎明に戦う』『苦の親鸞』『佐藤信淵』等)や後期の歴史書(『秋田県労働運動史』『秋田市の今昔』等)があると見ることができる。こうした成果を「今野賢三の出立」(「種蒔く人」顕彰会『『種蒔く人』の射程-一〇〇年の時空を超えて-』秋田魁新報社、2022年3月30日)において発表した。 以上のことから、本研究の進捗状況について、「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、新型コロナウイルスの感染拡大のために遅れている県外調査に着手する。また、2021年10月9日に予定されていた「『種蒔く人』創刊100周年の集い-歴史・現在、そして未来へ-」が2022年10月8日に延期されたので、その対応に当たる必要もあろう。その上で、当初の計画に基づいて、研究の総まとめに入る。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、県外での取材・調査活動ができなかったことに加え、学会・研究会等がオンライン(併用)開催となったため、旅費等が不要となり支出が激減した。また、10月9日に開催が予定されていた「『種蒔く人』創刊一〇〇周年の集い-歴史・現在、そして未来へ-」が次年度10月8日に延期となったため、会場費、チラシ・ポスター制作費、講師の謝金や旅費分の支出がなくなった。 2022年度は、上記の記念事業(講演・シンポジウム・研究書『『種蒔く人』の射程-一〇〇年の時空を超えて-』献本等)の遂行のために使用する予定である。
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Research Products
(3 results)