2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study Aiming for the Systemization of Takasho in Falconry Culture of the Middle Ages to the Early Modern Period
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19K00325
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Research Institution | The University of Nagano |
Principal Investigator |
二本松 泰子 長野県立大学, グローバルマネジメント学部, 准教授 (30449532)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 鷹書 / 吉田流 / 鷹匠 / 『新増鷹鶻方』 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は吉田流の鷹術について取り上げ、同流派の鷹書を中心に考察を進めた。吉田流は中世以降に隆盛した主要な鷹術のひとつである。そもそもは中世末期に端を発するとされる鷹術流派であるが、武家の間でそれが盛んに好まれるようになったのは、近世中期に徳川吉宗に重用された紀州藩出身の鷹匠が吉田流だったことによる。そこで、まずは代々紀州藩に仕えた鷹匠の高城氏に注目し、同氏に伝来した吉田流の鷹書を取り上げ、その叙述内容について分析した。具体的には、吉宗に抜擢されて紀州藩の鷹匠から公儀鷹匠になった原田三野右衛門所縁の吉田流の鷹書との比較検討を試みた他、当時幕府の放鷹制度の影響を最も強く受けたとされる仙台藩の鷹匠である佐藤氏伝来の吉田流の鷹書とも比較検討を行った。その結果、紀州藩の吉田流の鷹書と公儀鷹匠の鷹書は極めて近い叙述内容を持つ一方で、仙台藩の吉田流の鷹匠はそれらとまったく異なる内容となっていることが判明した。このことから、近世中期以降の吉田流の鷹書は、必ずしも統一された体系を有していないことが確認された。 また、上記のように吉田流の鷹書が多彩に展開したもうひとつの要因として、朝鮮由来の鷹書である『新増鷹鶻方』の存在にも注目した。同書はもともと吉宗の薬草政策の一環として彼によって重用されたテキストである。そのため、吉宗所縁という類似した関係性から吉田流の鷹書として扱われるようになり、吉田流の鷹匠たちを介して広く流布するようになった。今年度はその伝播の具体的な事例のひとつとして尾張藩の鷹匠である林氏伝来の『新増鷹鶻方』について取り上げ、その伝来の実相について検証した。その結果、朝鮮由来の鷹書が吉田流の聖典として組み込まれてゆく経緯を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中近世の主要な鷹術流派のひとつである吉田流の鷹書群について、その体系的な実像をおおむね把握することができたのは今年度得られた大きな研究成果である。ただし、その成果によって、武家流の鷹狩りを支えた文事には鷹書以外の文書類も大きな役割を果たしていることが判明した。すなわち、鷹匠の家に鷹書を調査するにあたって、それとともに伝来した系図・印可状・日記といったいわゆる鷹匠文書もまた、鷹書の叙述内容と連動しながら鷹狩りの文化事象を形作る重要なコンテンツであることがおぼろげながら理解されてきたのである。 本研究課題は中世から近世にかけての鷹書の体系化を目指すものであるが、鷹書と文化的営為において深いかかわりを持つ鷹匠文書についてももう少し考察を広げる必要があった。そのため現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度となるため、中近世の主要な鷹書を体系的に読み解く作業の総括を目指す予定である。そのためには、武家流放鷹術の二大流派である祢津流と吉田流の鷹書の関連性を解明することがまずは最重要課題となる。『柳菴雜筆』などによると、吉田流は中世末期に祢津流から派生した流派とされるが、それぞれの流派の鷹書の叙述内容および各テキストが伝播していった経緯をたどると、祢津流と吉田流は複雑に絡み合いながら展開していたことが推測される。 そこで、次年度は、祢津流と吉田流の鷹書が連動していることを示す事例を取り上げ、両流派の関係性について検証する。それによって中近世における主要な鷹書類の体系化を図るとともにそれが支えた武家流放鷹文化の実像について明らかにすることを目指す。 また、こういった鷹書類と深く関わりながら伝来した鷹匠文書についても取り上げ、その内容と文化的意義も並行して考察してゆく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度はコロナ禍のために調査旅行に出かけたり、対面で専門家からレクチャーを受けたりする機会が持てなかった。その結果、当初予定していた旅費と人件費の執行が0円となり、その分の経費を他の費目に急遽回して執行することにした。このように予定外の執行をしたことから計算通りに消化できず、88円余ることになった。しかし、少額なので次年度分として請求した助成金と合わせて当初の計画通りに執行しても特に問題はないと考えている。
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Research Products
(4 results)