2021 Fiscal Year Research-status Report
〈文芸としての覚書〉に関する資料学的基礎研究:文禄・慶長の役関連文献を中心に
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19K00330
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
鈴木 彰 立教大学, 文学部, 教授 (40287941)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本中世文学 / 文禄・慶長の役 / 〈文芸としての覚書〉 / 壬辰・丁酉倭乱 / 軍記 / 語り物文芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、16世紀後半にさまざまな戦場を体験した武士とその子孫たちが、主に17世紀に入ってから著した〈覚書〉と呼ばれる資料群を主な分析対象とし、その伝存状況の把握と文芸資料としての意義の解明と定位を目的としている。昨年度、コロナ感染症の影響で調査出張の計画を大幅に縮小せざるをえず、本研究の進展が遅れることとなったため、本年度は、状況が改善することを前提としてその遅れをできるかぎり取り戻すための計画と準備を進めていたが、結果的にコロナ禍の影響は続き、関連資料の調査と研究打ち合わせを目的とした国内外での資料調査は大幅に縮小することとなった。海外・国内調査はすべて中止とせざるをえなかった。 出張による資料の調査・収集が不可能であったため、本年度も手もとの資料の充実をはかることをめざし、鹿児島県立図書館、国文学研究資料館等の諸機関から遠隔複写サービス等を利用して必要な資料を収集したり、海外で刊行された図書・図録などを現地在住の知人を介して代理購入してもらうかたちで入手したりした。また、アルバイトを依頼するかたちで、本研究の基礎資料となる韓国語文献を翻訳してもらい、今後の調査や分析のための基礎資料を充実させることができた。 継続中の〈文芸としての覚書〉資料の所在確認については、少しずつ関連情報を積み重ねてきた。最終年度の来年度も引き続きいっそうの充実をはかるつもりである。 資料翻刻については、旧薩摩藩内に伝わっていた『諏訪の本地』の学界未紹介の伝本の本文を紹介することができた。その他、2021年9月に、第16回EAJS大会に覚書に関するセッションを組んで参加し、本研究の成果を含む発表を行った。また、10月と3月には二つの研究会で、それぞれ研究発表をおこなった。その内容は、次年度のうちに論文化する予定である。また、研究の成果を盛り込んだ雑誌論文を1点、公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度ごとの研究計画に基づいて、調査先の機関と慎重に調整を重ねながら、調査活動に取り組んできた。しかし、昨年度に続いて本年度もまた、コロナ禍の影響によって調査計画を大幅に縮小せざるをえなかった。そのため、原資料の調査をする予定であった資料の情報収集活動がすっかり停滞することとなった。また、韓国国内での関連図書類の収集も実現できなかった。ただし、アルバイトを雇って、これまでに収集した資料の入力作業を進めることができたことなど、着実に作業を進められた点もあった。また、本年度もいくつかの興味深い資料を見つけだすことができたため、次年度以降の研究への糸口を作ることができた。 なお、昨年度に計画を変更して延期していた福岡県立図書館や、本年度予定していた鹿児島県立図書館その他での調査は、結局実現できなかった。また、韓国国内で計画していた調査や研究打ち合わせも次年度以降にまわすこととなった。そのぶん、各地の研究者・学芸員の方々とのオンラインやメールでのやりとりをとおして、情報交換を試みるなどして、諸事情を調整しながら、できるかぎり対応したつもりであるが、結果的に調査関係の進み具合が悪くなってしまった。 ただし、本年度末の3月には、本研究の成果を鹿児島の隼人文化研究会にて発表することができた。これは当初は実施が難しいであろうと予想していたのだが、現地での対応に助けられて実現できた。この点は、よい方向に動いた事柄である。 予算面では、コロナ禍への対応として、旅費の支出を抑えて図書や資料の複写物を入手すること、アルバイトによるデータ入力や翻訳に重点をおいたため、その方面の費用が大きくなった。次年度以降の活動でも、有効利用を心がけたい。 以上により、総体としてみれば、やや遅れている状況にあると考えているが、最終年度となる次年度に、その遅れをできるかぎり取り戻せるように取り組むつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度となる。今後のコロナ禍の状況に照らして、柔軟にさまざまな対応をとっていくつもりではあるが、まずは繰り越し課題となっている諸機関への調査と資料収集、分析に取り組むことをめざしたい。あわせて当初の計画どおり、当該年度に訪問予定としている国内外の各機関に赴いて資料収集を進めていく準備をしておく。また、収集済み資料の分析にも継続して取り組み、これまでに得た理解をいっそう深化させる。 現在でもなお、旅費の執行をはじめとして、2022年度の調査計画をどこまで実施できるかについて、予測することが困難な状況にある。とはいえ、現時点では当初の計画どおりに調査を行うことを予定しておき、適宜調整しながら対処していく。 資料の所在確認および重要な資料の翻刻については、これまでどおりに進めていく。また、成果報告の意味をこめた研究集会についても、年度末の三月に鹿児島県歴史・美術資料センター黎明館で開催予定である。 また、最終年度にあたる次年度には、これまでの分析をとおして明らかとなってきた新たな課題と向き合い、その研究成果を論文・学会発表などの形で、随時公表していくつもりである。
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Causes of Carryover |
本年度もコロナ禍の影響で、出張を実現できなかった。交通費が発生しない近隣図書館等での資料収集は、可能な範囲で行った。そのため、国内・海外出張旅費を執行することができなかった。また、三月に鹿児島で予定していた研究集会は、社会状況に照らして開催があやぶまれたため、本科研費による主催のかたちをとらず、現地の研究者の協力をえて、そちらで主催してもらい、参加できるときには私も参加するという形をとった。したがって、それに関する講師を招くこともなく、講師謝金もかからなくなった。これらの理由により、次年度使用額が生じる結果となった。 2022年度には、感染状況次第ではあるが、調査にでかけられるタイミングを逃すことなく、効率的に現地調査を行うこととしたい。実現していない訪問先での調査を、可能な限り2022年度の計画に組み込み、内容面での充実を図る。また、コロナ禍の影響を想定しつつ、2022年度も資料複写代や物品費を利用して、手もとの資料を充実させることと、それらの分析を通して得られた成果を公表することに力点をおくことにする。また、随時、必要不可欠なデータ入力・翻訳などのアルバイト代・謝金も用いる。本科研費の最終年度としての成果報告会を計画してはいるが、まずは例年行ってきた3月の鹿児島での研究集会を実現させられるように状況を整えていくこととする。
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