2020 Fiscal Year Research-status Report
書肆作者と俳諧師作者による仮名草子・初期浮世草子の研究
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19K00332
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中嶋 隆 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40155718)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲葉 有祐 和光大学, 表現学部, 准教授 (90649534)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 永田長兵衛 / 西村半兵衛 / 好色伊勢物語 / いくのの草子 / 改題本 / 留板 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、俳諧の文芸的特性と出版書肆の発想から、新しい草子すなわち浮世草子が誕生、発展したという仮説をもとに基礎的研究を行うことである。研究方法の特徴は、西鶴優位の文学史観を見直し、作品の成立諸要因を多元化すること、すなわち複数の通時軸から文芸の展開を総体的に把握することにあった。貞享3年2月に、京・永田長兵衛と江戸・西村半兵衛二書肆相版で刊行され,書肆・俳諧師西村市郎右衛門(未達)が作者と推定されている『好色伊勢物語』という浮世草子がある。阪本龍門文庫本が初版本である。この本は元禄7年に『いくのの草子』と改題出版された。版元は京「永田調兵衛」単独版である。さらに同じ書名ながら奥付の刊年を削り書肆名「永田調兵衛」のみを残した改刻本がある。この改刻本ながら原装の善本を入手した。『好色伊勢物語』『いくのの草子』の主版元は「永田長(調)兵衛」なので求板本ではないのだが、求板本同様に、巻1の2.3.6.15丁の版木が元禄7年版では欠落し、刊年を削った版では新しい版木が補われれている。装幀から考えて、無刊年本は享保ごろ刊行されたと推定する。「長兵衛」を「調兵衛」と屋号を替えているのは代替わりに伴う変更であろう。管見では元禄4年以降「永田調兵衛」が用いられている。また初版本で相版元となった「西村半兵衛」は元禄9年以降出版物が見られなくなるが、元禄7年には書肆としての活動をまだ続けていた。通例では、版木を買い取った書肆が求板本を改刻する場合には、板木の痛みを修訂する場合が多いのだが、他にも様々な原因が想定できる。本書のケースは、初版本からわずか8年後に刊行された改題本の巻1の4丁分の版木だけが欠落し、そのまま改題本として刊行され、さらに享保期に版木が補われているという不自然さが目立つ。4丁分の版木は「西村半兵衛」の板株(版権)を保証する留板だったのではないかと推定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上方と江戸という地域性や、流通形態が文芸に与えた影響などが浮世草子研究では軽視されるきらいがあったが、この点を是正するには、浮世草子諸本の厳密な書誌調査が必要となる。すなわち原本を閲覧し、紙質や板木の状態を確認しつつ、刊(刊行時)・印(印摺時)・修(版木修訂時)を厳密に調査することが不可欠である。とりわけ、改題本・求板本の場合には、書誌調査に加えるに、改題や改刻に到った理由を考証しつつ、出版システムをめぐる諸問題について考察する予定であった。しかしながら、2020年3月以降、新型コロナウィルス感染症の流行により、原本閲覧目的の出張調査ができず、不本意ながら研究方法を変更せざるを得なかった。変更点の第一は、元禄期浮世草子の改題本・求板本を網羅的に調査することが不可能となったので、考証する書物をしぼったことである。手持ちの写真や公開されているウェブ資料を用いて、分かる範囲で改刻を確認することにした。ただし、写真やウェブ画面を使用するだけでは書誌学的情報量が限定されるので、端本でも入手できる原本は購入する方針で臨んだ。 今年度は『好色伊勢物語』とその改題本『いくのの草子』を中心に考究したが、浮世草子全般についての調査が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、国内の諸本調査とホノルル美術館リチャード レイン氏旧蔵本の調査を行う予定だった。しかし、コロナ感染症の流行で、2021/2022年度ともに出張調査ができない可能性がある。その場合には、俳諧師・書肆作者の浮世草子を網羅的に調査するのではなく、2020年度に行ったように、研究対象をしぼらざるをえない。その考察から浮世草子全般の傾向を類推するという方法に転換し、当初の研究テーマを追究したい。
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Research Products
(4 results)