2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00341
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| Research Institution | University of Tsukuba |
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Principal Investigator |
吉森 佳奈子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10302829)
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| Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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| Keywords | 『河海抄』 / 『花鳥余情』 / 『河海抄類字』 / 『湖月抄』 / 『一代要記』 / 『帝王編年記』 / 『三教指帰』 / 『源氏物語』 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、研究の初年度にあたるため、とくに基礎研究に力を注いだ。一方で、次年度以降の研究への継続性を確保すべく、より発展的に独自の視座をひらくことを目ざした。
まず、善本はないと指摘される『河海抄』の複雑な異文状況が、同時代の歴史認識の問題と不可分に生じたものであることを解明する研究として、本研究課題においては、従来まったく注目されてこなかった『河海抄類字』をとりあげて考察してゆく計画をたてているが、2019年度は、国立国会図書館、宮内庁書陵部、東京大学総合図書館の、資料複写提供の協力を得て研究を進め、「『河海抄類字』について―『河海抄』のゆくえ―」を執筆した。この論文は、従来の研究では、私的な手控としてつくられた『河海抄』の索引が偶然残ったものと見なされ、積極的な評価はされてこなかった『河海抄類字』について、同じ題で伝えられているが、内容は少なくとも異なる二種類であること、また、これが注釈書の類字であることに注目すべきであることを提起、さらに、近世期の、藩校をふくむ学問世界において、『源氏物語』注釈である『河海抄』が無視できない役割を担って存在していた可能性について考察したものである。この研究により、『河海抄』の、物語と歴史記述とのあいだを往還するようなありようが、中世のみならず近世にも意味をもっていた可能性を展望し得た。すでに学会誌（審査付）に投稿、採用済であるが、掲載は2020年度となった。
『花鳥余情』の方向性が採られ、『河海抄』は受けつがれなかったという『源氏物語』注釈史の流れとは別に、『河海抄』が『源氏物語』の世界に見とどけようとしたものを、結果としてきわだだせ、書物としての『河海抄』が生きていったかたちをうかがわせるひとつの例が『河海抄類字』である問題については、次年度も研究を継続してゆきたい。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、①『河海抄』の伝承にかかわると見られる『河海抄類字』の研究、②善本がないという理由で立ち遅れている『河海抄』の伝本研究と、本文確定のための研究、③『源氏物語』注釈史と、官撰国史断絶後の歴史記述の接点にかんする研究、の、具体的な三つのテーマをたて、研究計画の一年目として、本研究課題全体を展望しながら進めてゆく方向で研究を行った。
①にかんしては、『河海抄類字』の存在に注目し、『源氏物語』注釈史を問いなおす研究を行い、査読付論文のかたちで成果を公表した。この研究をとおして、『河海抄類字』と題され、内容を異にする書が複数存在することをつきとめ、従来、私的な手控が偶然残ったものとしてほとんど顧みられることのなかったこの書について、注釈史の問題として捉えなおす視座を提案、2020年度に継続して研究をすすめてゆく方針である。
『河海抄類字』が、『河海抄』の伝本研究に重要な役割を担っている可能性について見とおしを得たことは、②の研究とのかかわりを確保しながらさらに深めてゆける手ごたえともなっている。②の研究は、本研究計画の目的のひとつである、本を書写し伝えた人と家に注目してすすめる伝統的な文献学の方法にたいする発展的な問いなおしに繋がるものでもある。
さらに、③の、歴史記述との接点については、『源氏物語』注釈史と『三教指帰』注釈史とが合流するところで成り立っている歴史書に注目した研究を継続中である。『源氏物語』注釈史と、『三教指帰』注釈とのかかわりについては、対象となる作品がまったく異なるジャンルであるために、従来指摘がなかった問題であるが、古い段階の『三教指帰』注釈と『河海抄』とのあいだに具体的な影響関係があり、その接点において重要な役割を果たしているのが引用される歴史記述であることを確認し、次年度にひきつづき検証をかさねる。
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| Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、研究の二年目にあたるため、前年度にひきつづき、『河海抄』の文献学的な基礎研究に力を注ぐ一方で、2019年度に開始した『源氏物語』注釈史と、私撰国史生成の現場である学問世界との接点について考察する。まず研究の第一として、前年度の研究にひきつづいて『河海抄』の伝本研究を行う。具体的には、『河海抄類字』への注目が、ややもすると停滞しがちな『河海抄』の文献学的研究の発展に意味を担い得る可能性を検証してゆく。その第一段階として、前年度閲覧できなかった無窮会神習文庫蔵『河海抄類字』の調査に着手することを計画している。2019年度の研究をふまえ、これが、宮内庁書陵部本と近しい関係にある本であるという見とおしを得ているが、本年度はその調査と、『河海抄類字』と題する二種類の内容を異にする書が、いずれも流布の空間をもっていたことの意味について問う研究を行う。
研究の第二として、研究の第一で考察した、『河海抄類字』が、『河海抄』と近世の学問世界との接点を示唆する資料であることをふまえ、この書の存在が、日本思想史の分野にも新たな方法論の提起となり得ることについて具体的に検証してゆく。
さらに、その研究とのかかわりのなかで、研究の第三として、開版された『三教指帰』注釈とのかかわりについて、前年度の研究成果も承けながら、いっそう精緻な検証をすすめてゆく。この研究が、出版文化のなかの『源氏物語』注釈を考えるうえで有益な視座の提起となる見通しを得ている。
研究の第四として、研究の第二ともかかわらせながら、『河海抄』所引の歴史記述をとりあげ、物語が歴史によって注釈されることの問題のひろがりを考え、歴史記述生成の現場とのかかわりについて探る。
これらにかんして、2020年度には、2019年度の論文投稿のかたちでの公表をさらに進め、単著刊行の方向で本研究の成果を問うことを計画している。
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| Causes of Carryover |
筑波大学附属図書館をとおして複写を依頼していた機関の施設改修等の都合で、購入のための支出が次年度となったため。
また、古典籍（『源氏物語』注釈関係）で、すでに購入価も確定しているものについて、業者による虫損補修作業に遅延が生じ、納品が次年度となったため。
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Research Products
(1 results)
