2019 Fiscal Year Research-status Report
晋宋期における地方官吏の文学空間――山水と神怪の探求
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19K00370
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大平 幸代 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (90351725)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 世説新語 / 魏晋南北朝 / 古小説 / 会稽典録 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、地方官僚組織における説話の伝承とその機能に注目して考察を進めた。特に、『世説新語』が、後漢から東晋期の説話をいかに取り組みながら、劉宋期の士人の関心に応じた説話を選定し、書き換えを行っているのかという点について、具体例を詳細に示すことを目指した。 研究成果の一部は、8月に南京大学で行われた「魏晋風流与中国文化:第二届《世説》学国際学術研討会」において、「“豫章太守陳蕃”的徳行―《世説新語》与地方官吏文化 」として発表した。本論文は、後漢から劉宋にいたる豫章太守の記録をたどり、豫章における太守の祭祀の伝統と隠逸の風について整理したうえで、『世説新語』の冒頭に「礼賢」の代表たる「豫章太守陳蕃」の説話が収載されていることの意味を考察したものである。 また、『叙説』47に、論稿「「曹娥碑」を語る人々―後漢から晋宋期における地方社会と説話―」を発表した。本稿では、「曹娥碑」をめぐる伝承の変容のあとを追いながら、会稽における地域意識の高まりと南北(地方と中央)の関心のずれを明らかにすることをめざした。考察のポイントは、以下の3点である。1)会稽において上虞県長・度尚の曹娥顕彰がいかに語られ書き記されたのか。2)北方における会稽および曹娥のイメージはどのようなものだったのか。3)地方の記録と中央の官人とがどのように結びつき、新たな伝承を生み出していったのか。 以上の事例研究により、地域密着型の豪族や隠士と、外部から派遣されてくる地方長官との接触によって、その土地固有の「記録」が生み出される場を、わずかながら示すことができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『世説新語』の逸話を主な対象とし、豫章と会稽という二つの地域における説話伝承の事例を考察した。地方における官吏と隠士との関わり、地域の説話の伝承のありかたについて、一定程度明らかにできた。また、「世説学」国際学会への参加等によって、魏晋文化および『世説』のテキストに対する知見を広めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
『世説新語』を中心とし、史書や地志、志怪書等を参照しながら、後漢末から劉宋期における地域伝承のありようについて、さらに考察を進める。特に、劉宋期における地域集団および士人の著述活動について、刺史・太守およびその属僚、隠士、地方豪族などのそれぞれの役割や相互影響関係をしめす資料を丹念に拾い出し、分析する。 また、次の課題にすすむための下準備として、荊州および会稽の神仙・隠逸にまつわる伝承(詩賦・志怪・史伝なども含む)について、幅広く収集・整理する。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた国内学会が中止になり、購入予定であった中国書籍の入荷が遅れたため、残額が生じた。残額は、次年度以降の国際学会への参加費の一部および書籍購入にあてる予定である。
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