2022 Fiscal Year Annual Research Report
晋宋期における地方官吏の文学空間――山水と神怪の探求
Project/Area Number |
19K00370
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大平 幸代 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (90351725)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 武人 / 恩倖 / 徐爰 / 賦注 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、劉宋期の士人階層と文芸の変容を中心に考察を進め、論文「六朝の射雉と君臣――雉場をめぐる勧戒のことば――」として公表した。本稿では、射雉をめぐる歴史書の記述、潘岳「射雉賦」の徐爰注、鮑照「代雉朝飛」を主な題材とし、次の点を指摘した。(1)劉宋の孝武帝以降、権力集中をはたした皇帝たちの負の面を象徴的に示すものとして射雉の様子が記録された、(2)才学によって皇帝に取り立てられた恩倖の臣にとって、射雉は学識や辞藻を発揮できる新たな題材であった、(3)射雉にまつわる文化の顕在化には、 武人と寒門・寒人の抬頭、北伐等による尚武の気風が基底として存在していた。 本研究期間を通して、地方官僚および(隠士や耆老をふくむ)地域社会による地域伝承の生成、伝承の変容に関する事例研究を行った。(1)豫章における祭祀と隠逸の風が生み出した伝承が『世説新語』や『幽明録』の逸話として記される状況を明らかにした。(2)会稽における孝女顕彰および官衙における地方官僚の語りのありさまについて、『会稽典録』や『後漢書』、『列女伝』等の比較を通して論じ、そこに中央からみた南方趣味が作用していたこと、そうした背景のもとで、『世説新語』や『異苑』の曹娥碑をめぐる話が成立していることを指摘した。(3)北伐に関する観世音応験譚をめぐり、応験譚の舞台となった江北社会とりわけ彭城の意味付けについて論じ、晩渡北人・北からの逃亡・観世音応験の三者が密接なつながりをもつものとしてイメージされてゆくさまをたどった。 以上の考察を通じて、(1)晋末から興った武人や寒門・寒人、地方官僚の語りや記憶が記録として蓄積され、楽しまれて(必要とされて)きた状況、(2)そうした状況が、説話空間、いわゆる志人小説や志怪小説といったジャンルの流行を生み出してきたさま、を示した。
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