2021 Fiscal Year Research-status Report
検閲に抗して:トマス・ハーディ『日陰者ジュード』の創作過程の解明
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19K00391
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上原 早苗 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00256025)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トマス・ハーディ / Jude the Obsccure / 草稿研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
トマス・ハーディの研究者の間には、ハーディがJude the Obscure執筆時に出版社の検閲を受け、性的な挿話・表現の多くを削除・修正せざるをえなかったとの言説が流布しているが、本研究は、この小説の執筆過程を検証することにより、従来の説には解消されえない、出版社への抵抗ともいうべきハーディの改変作業に光を当てることを目指している。 今年度は、Jude the Obscureの原稿の収蔵館のフィッツウィリアム博物館から入手したマイクロフィルムを利用し、日本で解読作業に従事した。ハーディの原稿には黒インク、青インク、黒鉛筆、青鉛筆が使用されており、経年劣化によるインクの褪色が進んでいるため、マイクロフィルムでは黒インクと黒鉛筆の区別や黒インクと青インクの違いなどが判別しにくい。そのため、ハーディの執筆段階の確定(筆記具の違いが重要な手がかりとなる)には伝統的な目視調査が欠かせないのだが、コロナ禍により、今年度予定していた渡英が叶わなかった。 現在は、2019年度、2020年度、2021年度に解読に成功した箇所をJude the Obscure読解に反映させながら、Jude the Obscure論を執筆中である。その成果の一部は"Jude the Obscure in Japanese"に組み込み、国際研究集会にて発表した。 また、興味深いことに、アトランティックを挟んで英米で同時に連載されたこの小説の雑誌版を校合分析してみると、アメリカ版では(編集者アールデンの言葉を借りれば)、「ピューリタニズムゆえに」検閲されている箇所があることが明らかになった。その傍証としてJude the Obscureだけでなく、The Woodlandersのアメリカ版も有効なエビデンスになることが判明し、その点については、The Woodlandersの校訂版の書評という形で纏めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ハーディの原稿には黒インク、青インク、黒鉛筆、青鉛筆が使用されており、経年劣化によるインクの褪色が進んでいるため、マイクロフィルムでは解読しにくい箇所がある。また、黒インクと黒鉛筆の区別や黒インクと青インクの違いなどが判別しにくいため、ハーディの執筆段階の確定には伝統的な目視調査が欠かせない。しかしながら、2021年度は2020年度と同じく、コロナ禍のため渡英できず、ハーディの自筆原稿にアクセスすることができなかった。その結果、ハーディの自筆原稿の解読作業のうち1)解読不可能だった箇所および2)執筆段階確定の目視調査が実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
日本側の水際対策が緩和され次第、渡英し、ハーディの自筆原稿の目視調査を実施することで、研究を推進したい。具体的には、次年度使用額として4回分の渡英調査費を残しており、この費用を有効活用する。コロナ禍で不透明な部分があるが、可能であれば、1回の滞在日程を予定よりも延長して、2022年度は3回渡英することで研究を完了させたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、2020年度および2021年度に予定していたイギリスでの原稿の目視調査(2回x2年、計4回)が実施できなかったため、次年度使用額が発生した。次年度使用額は4回分の渡英調査費である。コロナ禍が収束していないため不透明な部分が残るが、2022年度は、予定よりも1回の滞在日程を延長し、渡英を3回とする。3回の目視調査で研究を完了させる。
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Research Products
(2 results)