2022 Fiscal Year Research-status Report
検閲に抗して:トマス・ハーディ『日陰者ジュード』の創作過程の解明
Project/Area Number |
19K00391
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上原 早苗 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00256025)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | トマス・ハーディ / Jude the Obscure / 草稿研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
トマス・ハーディの研究者の間には、ハーディがJude the Obscure(初出1894-95、初版1895)執筆時に掲載誌『ハーパーズ・ニュー・マンスリー・マガジン』編集者ヘンリー・アールデンの検閲を受けて、性的な挿話・表現の多くを削除・修正せざるをえなかったとの言説が広く流布している。本研究では、この小説の執筆過程を検証することにより、従来の説には解消されえない、出版社への抵抗とも言うべきハーディの改変作業に光を当てることを目指している。 今年度は昨年と同じく、Jude the Obscureの原稿の収蔵館FitzWilliam Museum, Cambridgeから入手したマイクロフィルムを利用し、日本で解読作業に従事した。原稿執筆には黒インク、青インク、黒鉛筆、青鉛筆が使用されているが、経年劣化によるインクの褪色が進んでいるため、マイクロフィルムでは黒インクと黒鉛筆の区別や、黒インクと青鉛筆の違いなどが判別しにくい(全てが灰色に見えてしまうため)。筆記具の違いがハーディの執筆段階の確定には重要な手がかりとなるため、目視調査が欠かせないが、コロナ禍により、今年度予定していた渡英が叶わなかった。 現在は、これまでにマイクロフィルムで解読に成功した原稿の約400葉や、デジタル・アーカイブで入手できた1880年代・1890年代の検閲関係の資料(裁判記録、判決文、報道記事、国会議事録、インタヴュー記事など)を使用しながら、Jude the Obscure論「『日陰者ジュード』:ファミリー・リーディングとの決別」(仮題)を執筆中である。また、成果の一部は、"Who's Afraid of Censors?"に組み込み、国際研究集会Global Hardyにて発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ハーディはペン(黒インク、青インク)と鉛筆(黒、青)を使い分けながら小説を執筆したため、執筆段階の確定には筆記具の違いが鍵となる。マイクロフィルムでは筆記具の判別が不可能であり、原稿の目視調査が欠かせないが、コロナ禍のため渡英できなかった。ハーディの自筆原稿にアクセスできなかったことから、研究が計画よりも遅れることとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
日本側の水際対策が撤廃される2023年度に渡英し、ハーディの自筆原稿の目視調査を実施することで、研究を推進したい。次年度使用額として、4回分の渡英調査費を残しており、この費用を有効活用する。1回の滞在日数を予定よりも延長し、2023年度は3回渡英することで、研究を完了させたい。
|
Causes of Carryover |
理由)本研究にはハーディの自筆原稿の目視調査が欠かせないが、コロナ禍のため渡英できなかった。そのため、渡航費が残り、次年度使用額が生じることとなった。 使用計画)水際対策が撤廃される次年度に3回渡英し、原稿の目視調査を実施することで研究を完了させる。
|
Research Products
(1 results)