2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00393
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トム・バーンズ / デイヴィッド・ジョーンズ / T.S.エリオット |
Outline of Annual Research Achievements |
1829年の政治的解放以来、長らく社会・文化的ゲットーに押し込まれていたローマ・カトリック信者の認知に貢献したのは、Sheed & Ward、Burns & Oates、Hollis & Carterなどのカトリック出版社であり、その主編集者がトム・バーンズ(Tom Burns, 1906-1995)であった。彼はチェスタベロック、エリック・ギルに続く、ローマ・カトリック復興の第三期の中心にいた。国教会では、オックスフォード運動に由来する勢力がアングロ・カトリックとして存在し、モダニズム期におけるその代表はT.S.エリオットだった。国教会とローマ・カトリックを結ぶネットワークを構築したのがバーンズである。Criterionを主宰したエリオットのヨーロッパ大の知的サークルには、ローマ・カトリック信者でバーンズの知人がいるのも不思議ではない。エリオットが賛同した「アクシオン・フランセーズ」とは距離を置きながらも、バーンズはJ.マリタン、M.ダーシー、C.ドーソン、T.ヘッカーらと交流し、第一次世界大戦後のヨーロッパの精神的危機に立ち向かおうとした。ジョーンズをエリオット(とフェイバー社)に紹介したのも彼だった。 バーンズの企画で重要なのはEssays in Orderシリーズで、そのカヴァーにユニコーンの版画を提供したのがジョーンズである。ユニコーンは、夜中のうちに邪悪な動物が毒を入れた水に、朝のうちに角をつけて浄化し、善き動物たちが飲めるようにする。バーンズはこのユニコーンに聖霊を見出し、自らの出版事業の役割とした。彼の周りに集ったカトリック者の理念は、「宗教改革、革命と産業主義の時代が、日々の生活のうちにあった聖なる領域を侵食し、功利主義的となって生の不可欠な次元が失われる。宗教無き文化は文化ではなく、野蛮なものだ」であった。この知的交流圏からジョーンズの精神が形成された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジョーンズの詩を十分に理解するためには、彼が描いた絵も見る必要がある。その現物を多く所蔵するウェールズ国立博物館(カーディフ)に出張し、実際に見ることができた上に、キュレーターの行為によりスライドも入手できた。 ジョーンズの最も重要なエッセイで、彼の思想の根幹をなすと言ってよい「秘跡主義」を解き明かしたArt and Sacramentを翻訳することができた。このエッセイは本研究が目的とする彼の詩の翻訳の「序文」として組み込まれる予定である。彼のアート観に根底には、人間はものを作る存在である以上、必ずや秘跡執行者である、というカトリックの実体変化の聖体解釈に基づく人間・アート観がある。パンとぶどう酒が最後の晩餐を再・現前化し、別のもの(救世主キリストの体)に実体変化するその奥義に詩人もまた参与するのである。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、ジョーンズに影響を与えたカトリックの新トマス主義と秘跡神学、その主唱者であったジャック・マリタンの著作と前年に引き続きジョーンズ自身の著作を読み、ジョーンズ詩学の実相を明らかにする。当時のカトリック教会の公式神学であった新トマス主義を代弁するイエズス会員マーティン・ダーシー、カトリックの文化史家クリストファー・ドーソンの著作、ジョーンズのエッセイ集Epoch and ArtistとThe Dying Gaul、書簡集Dai Greatcoat、マリタンの著作、特にその著書Art and Scholasticismを手がかりにする予定である。19年度において必要資料の大方はすでに入手済みである。
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Causes of Carryover |
年度末に物品費、とくに消耗品の購入ですべて消化することも考えられたが、本研究は海外渡航が各年度に予定されており、そのための資金として次年度に使用した方が賢明であろうと判断した。
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