2019 Fiscal Year Research-status Report
可能動詞化の方言横断的多様性とその知識の獲得に関する理論的・実証的研究
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19K00554
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
高橋 英也 岩手県立大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (90312636)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江村 健介 岩手県立大学, 公私立大学の部局等, 助教 (60757128)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 繋属述語仮説 / Get仮説 / 可能動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
H31年度は、以下3つに大別される課題研究を実施した。まず、受動形態素「ラレ」に関して、単一の形態素ではなく、階層構造を内包する機能辞 (r)arとeに分離されるとの想定の下で、(i) 接辞eは、「エル」が文法化した機能範疇Getとして受動文の主語を認可し、(ii) (r)arは、出現・発生を表す動詞「アル」が文法化した非対格構造を持つ機能範疇Inch(oative) であることを提案し、伝統的な分類における3種類の受動文に対して統一的分析を提示した。第二に、可能動詞+テイルのアスペクト解釈に関する竹沢 (2015) の観察を踏まえ、派生接辞としての形態素eを介した可能動詞化と自他交替の連続性という観点から、接辞eの意味論的な役割について検討を行なった。特に、(i) vPとGetP は、事象構造における「過程 (process)」と「結果 (result)」の領域にそれぞれ対応し、(ii) テイル形の解釈は、そのスコープ内にあるvP とGetP の「可視性」により決まることを提案した。次に、福島方言と岩手方言で見られる接辞arによる述語形式における可能・(短形)受動の多義性と、そのar受動文の主語が非情物に限定されるという事実について検討を行なった。特に、同一の述語形態は同一の動詞主要部における音形具現の反映である (Jung 2020) との想定の下、可能と(短形)受動の接辞arは、(i) 事態の出現・発生を表す本動詞アルの文法化に由来する機能的範疇v[GO]の具現で、(ii) 派生元の動詞が潜在的に内包するアスペクト的限界点を顕在化させるとの分析を提示した。さらに、工藤 (2014) におけるアスペクト的限界性(開始限界と終了限界)の概念に基づき、可能形式と受動形式は開始限界点と終了限界点を伴うイベント性(GO)により区別されることを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者および分担者は、頻繁に研究打ち合わせを重ね、論文2本の刊行、および学会と研究会での研究発表3件を行なった。これまでの研究成果を踏まえた理論的考察を展開することで、特に、本研究を構成する課題(A)(B)について、当初想定していた目標はほぼ達成できたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的研究を中心とした課題(A)(B)については、現時点での順調な進捗状況を踏まえ、次年度以降も、引き続き研究代表者および分担者間での打ち合わせ、さらには国内外の研究者との活発な情報交換を通して、より一層活発な研究活動を実施することを確認済みである。他方、実証的研究を伴う課題(C)については、令和2年1月以降のコロナウィルスの感染拡大の影響を含む諸般の事情により、質問紙調査を次年度以降に先送りにしており、現在、その実施内容・方法を中心に検討を行なっている。
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Causes of Carryover |
実証的研究を伴う課題(C)について、令和2年1月以降のコロナウィルスの感染拡大の影響を含む諸般の事情により、質問紙調査を次年度以降に先送りにしているためで、次年度に実施するよう現在検討中である。
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Research Products
(7 results)