2019 Fiscal Year Research-status Report
ナチドイツの言語統制に関する修辞学的・コーパス言語学的研究―言語学と歴史学の協働
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19K00583
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
高田 博行 学習院大学, 文学部, 教授 (80127331)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川喜田 敦子 中央大学, 文学部, 教授 (80396837)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナチズム / 報道文 / スローガン / プロパガンダ / 政治的言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナチスドイツでは宣伝省が報道会議を開催し、公共性を持つテーマについて何をどう報道させるかについて方針決定し、それにより報道を受け取る側の国民の認識や判断を制御しようとした。この報道統制の実態と実効性を言語学と歴史学の協働により解明することを最終的な目的として、2019年度には次の研究調査と言語データ作成を行った。 1)W. A. Boelcke の編集した『戦時プロパガンダ1939-1941―宣伝省秘密会議』(1966)および『総力戦―ゲッベルスの秘密会議1939-1943』(1967)を一次史料として利用し、開戦から1941年までの言語統制の方針を抽出した。これらの方針にどのような言語的狙いと機能が認められるのかについて、修辞学とスローガン分析の観点から分析を行った。その結果、対比法、平行法、メタファー、誇大語法、婉曲法などの修辞学的の手法を組み合わせたいくつかの類型(例えば、隠蔽、幻惑、誘導)に区別できる可能性が確認できた。スローガンについては、「表示」、「評価」、「要求」という3機能の観点で有効に分析できることが確認できた。 2)『ハンブルク新聞』の1936年から1941年までの6年分の新聞記事のドイツ語文(広告欄は除く)を機械可読の文字データにした(約3000万語)。これは、宣伝省の言語統制方針が報道文にどの程度影響を与えているのかを見ると同時に、報道文で使用された語彙にどのような通時的変化が認められるのかを抽出して、それが宣伝省の方針の通時的変化とどの程度対応しているのかを確認するためである。ドイツで開発されたコーパス分析ソフトCorpus Workbenchを利用して、コーパス言語学の手法で有意差検定を行い、各年に特徴的な語と語結合を抽出し、重要度が高いと判明した語については、コロケーション分析でコンテクスト的意味(意味論的傾向)についても検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宣伝省の言語統制方針の抽出についても、報道文の言語データ作成についても、当初の予定通りの進捗を見ている。
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Strategy for Future Research Activity |
H. Bohrmann (編)『戦前期のナチ・報道通達文』(1984-2001、全7巻)を一次資料として、1933年から1939年までの宣伝省の言語方針を抽出する。言語データとしての『ハンブルク新聞』については、ナチ党が政権を掌握する3年前となる1930年から1935年前、さらにまた1942年から敗戦までについて文字データ化し、最終的に16年分のデータ(約8000万語)を作成する。 そのうえで、新聞コーパス全体を時代によりグルーピングして、コーパス言語学の手法で 報道文において特徴語(キーワード)がどのように通時的に変化したのかを分析する。各時期の各新聞の報道文における語彙の通時的変化が宣伝省の言語統制方針の変遷と大きく一致するものかを検証し、ナチドイツの言語統制がどの程度に実効性をもっていたのかについて巨視的に考察する。それにより、新聞編集部が宣伝省の意を忖度して、宣伝省の方針に合った表現の選択を必要以上に行っていたなどといった興味深い研究成果が得られる可能性があると考えている。 なお、言語学的な分析から得られた研究成果を、ナチ時代の言語統制やジャーナリズムに関する歴史学研究の知見と結びつけることによって、得られた成果を歴史学的な検証にも耐えうるものとすると同時に、ナチ時代を超えた中長期的な歴史的変化のなかに位置づけることも可能になると考えられる。
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Causes of Carryover |
購入予定の書籍の一部が年度内に調達できなかったため。
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