2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K00624
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
肥爪 周二 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70255032)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 音節構造 / 訓点資料 / 平安中期 / 日本語 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染拡大により、中断していた社寺における調査のうち、令和四年度は、石山寺のご厚意により、7月末に、ごく調査時期を限定する形で、石山寺典籍文書綜合調査団としての調査を実施することができた。石山寺においては、継続的に調査を進めている『守護国界主陀羅尼経』長保頃点の漢字音の調査を行った。当資料は、すべての拗音が、「逆〈カク〉,寵〈タウ〉,場〈タウ〉,鐸〈タク〉,笛〈タク〉,敵〈タク〉,勅〈トク〉,濁〈トク〉,猛〈マウ〉,梁〈ラウ〉,亮〈ラウ〉,慮〈ロ〉(以上開拗音)」「獷〈カウ〉,礦〈カウ〉,曠〈カウ〉,画〈カク〉,活〈カチ・カ〉,三水+護-言〈カム〉,冠〈カウ・カ〉,跪〈キ〉,帰〈キ〉,愧〈キ〉,卉〈キ〉,悔〈ケ〉,懸〈ケ〉,倦〈ケム〉(以上合拗音)」のように直音表記される、きわめて珍しい資料であり、この現象をどのように日本語史上に位置づけるかが課題となる。これについては、「平安時代の仮名表記―書き分けない音韻を中心に―」(印刷中)において、日本点字において拗音の直音に対する表示法が、濁音の清音に対する表示法に平行すること、自律分節音韻論autosegmental phonologyによる日本語分析において,口蓋化自律分節を設定することがある(palatal prosody)ことなどをヒントに、「拗」の要素をプロソディに準じて把握する方式がかつて存在した可能性を考えた。 この他、主に複製本やインターネット上の画像を利用して、データ収集および整理を、前年度までと同様に、継続して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、関西の社寺での調査(基本的に先方に決定権がある)がことごとく中止になり、本研究計画において中核をなす予定であった、平安中期(10世紀)訓点資料の原本調査が、ほとんど実施できなかったことによる。複製本やインターネット上に公開されている画像の整理・分析は、引き続き継続しているものの、多くが学界既知の資料であり、新たな知見を得ることが難しいのはやむを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
調査継続中である『守護国界主陀羅尼経』長保頃点の整理を進め、字音一覧を訓点語学会の機関誌『訓点語と訓点資料』に公表する予定である。前述したように、この資料自体が特異な性質を持つものであるが、それ以前に、平安中期の呉音資料として、まとまった分量の仮名音注・同音字注(合計1000例近い)を持つこと自体が貴重なものである。 次年度も、関西地区での社寺における典籍調査がすべて中止される、あるいは強い制限を受ける可能性が高い(調査が可能かどうかはお寺の方針次第であり、将来の調査継続を考えると、あまり無理なお願いはできない)。既収集のデータの整理・分韻表の作成の他、複製本が出版されていたり、画像がインターネット上に公開されている資料の再検討(平安中期以外のものも含む)や、信頼性の高い翻刻が存在するものなどを利用して、原本調査ができない不足を補ってゆく以外、方法はないであろう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、本研究計画の最も中心的な作業である、関西の寺社での原本調査が、ことごとく中止になったため。
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