2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00636
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐々木 冠 立命館大学, 言語教育情報研究科, 教授 (80312784)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 形態音韻論 / 不規則性 / 拡張コピュラ文 / 弱並列主義 / 地域差 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍の影響で調査がほとんどできなかったが、オンラインでの面接調査を実施して、2021年度以降の調査実践の準備をした。また、既存のデータの再解釈を行い、それは、後述する研究発表にもつながった。 2019年度以前に収集したデータを使った研究発表を3件オンラインで開催された研究会で行った。北海道方言の動詞述部に関するもの(「Covid-19の影響下における方言研究のあり方を模索するWS」で発表した「北海道方言の逆使役構文の意味的特徴:クローラによって集めたインターネット上のデータを用いた検証」)が1件、千葉県南房総市三芳方言に関するもの(「日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成」2020年度 第1回研究発表会で発表した「千葉県南房総市三芳方言の格」)が1件、千葉県の方言と茨城県の方言の対照を行ったもの(シンポジウム 「日本語文法研究のフロンティア ―日本の言語・方言の対照研究を中心に―」で発表した「拡張コピュラ文述部の形態論」)が1件である。このうち、千葉県の方言と茨城県の方言の対照は拡張コピュラ文述部で生じる形態音韻論的現象の地域差に関するものであった。この研究発表では、形態音韻論的交替の地域差を扱う上で弱並列主義のStratal-OT(Paul Kiparsky 提唱)が有効であることを主張した。 2020年度は日本語方言の形態統語論に関する英文論文の出版はあったものの、この研究計画に直接関係のある形態音韻論に関する論文の出版はなかった。ただし、2020年度中に入稿済みの形態音韻論に関する和文論文が現在校正作業中であり、2021年度中には出版される見込みである。この論文では日本語方言の動詞活用における不規則性の衰退傾向を分析している。不規則性の衰退には、形態音韻論における例外の衰退が含まれる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画の進捗状況は、遅れていると言わざるを得ない。研究計画が遅れている理由は2つある。コロナ禍により調査活動が制限されていることとアルバイタの雇用が思ったよりも難しかったことである。 2020年初頭から始まった新型コロナウィルスの感染拡大により、方言が話されている地域に赴き新たなデータを面接調査で集めることが事実上不可能になった。これは、調査によって調査協力者に健康被害を及ぼすリスクを回避するためには仕方がないことであった。調査によって調査協力者に健康被害を及ぼすことは倫理的に許されないからである。ただし、この問題に関しては対策も検討した。以前から調査に協力して下さっている方の中に地域の集まりでZoomを使う機会がありZoomを使える方がいたので、Zoomを介した調査を試したところ、一定の音質のデータを確保できることがわかった。2021年度はこのような方法を用いてデータ収集を継続する予定である。ただし、新規に調査協力者を獲得することはコロナ禍が続いている状況では困難が予想される。 2020年度は過去に発表された文献から動詞の形態音韻論に関与的なデータを抜き出す作業をアルバイタを雇用して進める予定であった。しかし、アルバイタの確保が意外と難しかった。コロナ禍により春学期に大学が封鎖されていた期間があったため、募集の広報が十分にできなかったためと考えられる。2021年度は広報の方法を改善するつもりである。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍がいつまで続くか不明な状況では、従来型の面接調査でのデータ収集は困難である。既存の文献から抜き出したデータをデータベースに登録する方法と従来型の面接調査に変わる新しいデータ収集の方法でアプローチする必要がある。 既存の文献から方言における形態音韻論的交替のデータを抜き出し、新たな観点から分析し、音韻プロセスの相互作用の類型化を行う。研究代表者ができるだけ分析に集中できるようにするために、データの抜き出しそのものはできるだけアルバイタを雇用して行うことにする。ただし、2020年度の経験からコロナ禍のもとではアルバイタの募集も工夫しなければうまく行かないことがわかったので、募集の方法そのものの検討も行うこととする。 既存の文献にあるデータは今日的観点から見ると部分的で体系性に欠ける場合がある。そのような場合はその地点のデータを現地で確認する必要があるが、従来型の面接調査が困難であるため、Zoomなどのオンラインコミュニケーションの方法を活用した調査を行うようにする。 オンラインで公開できるデータベースを構築するために、データベースの在り方についても研究を進める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、コロナ禍により研究計画を予定通りに実施できなかったためである。従来型の面接調査により方言のデータをとることが困難になった。これは、伝統方言の話者が高齢者に多く、新型コロナウィルスの感染が高齢者にとって特に危険なためである。調査によって調査協力者の健康被害を起こすことは倫理的に許されない。このような問題があるため、従来型に変わる面接調査方法を検討しオンラインでの調査が可能であることがわかったが、これも時間の関係で十分に進めることができなかった。 アルバイタを雇用し既存の文献にあるデータを抜き出す作業を進めることを計画していたが、アルバイタを集めることも困難であった。これは、大学が封鎖されていた期間が数ヶ月間あったためである。今後は募集の広報の在り方を工夫し、2020年度の遅れを取り戻したい。
|
-
-
-
-
[Book] Mermaid Construction: A Compound-Predicate Construction with Biclausal Appearance2020
Author(s)
Fuyuki Ebata, Shiho Ebihara, Fubito Endo, Yasunari Imamura, Masumi Katagiri, Atsuhiko Kato, Kazuhiro Kawachi, Joungmin Kim, Kazuyuki Kiryu, Masato Kobayashi, Megumi Kurebito, Asako Miyachi, Kan Sasaki, Michinori Shimoji, Satoko Shirai, Kiyoko Takahashi, and Tasaku Tsunoda
Total Pages
868
Publisher
De Gruyter Mouton
ISBN
978-3-11-067080-6