2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K00641
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
櫻井 豪人 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (60334009)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 洋学資料 / 蘭学 / 辞書 / 単語集 / 編纂方法 / 編纂過程 / 文献学 / 書誌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和三年度は、研究成果の一部として以下の三本の論文を執筆・発表した。 「「オーストラリア」の「豪」系音訳表記について 」…現代に残る外国地名の漢字音訳表記は中国起源のものであることが多いが、「オーストラリア」の「豪」系音訳表記についてはまず間違いなく日本起源であるものと考えられる。この論文では、江戸時代の蘭学資料で「オーストラリア」の「豪」系音訳表記を載せている早い例を提示し、それに対して分析を加えることにより、「なぜ「オーストラリア」を「豪」の字で音訳することになったのか」という問いに対して一つの答えを示した。 「『波留麻和解』に含まれる出現時期の早い訳語」…日本初の蘭日辞書『波留麻和解』(寛政八1796年刊)には、それ以前の蘭学で使われるようになった訳語や、編者の一員である宇田川玄随および安岡玄真(のちの宇田川玄真)が使い始めたと見られる訳語が含まれている。この論文では、玄真が使い始めたと見られる訳語の一部が玄真の『医範提綱』(文化二1805年刊)に先行して『波留麻和解』に見られることや、その他の訳語についてもこれまで報告されていた用例よりも早い用例が『波留麻和解』の中に含まれていることを指摘した。 「『波留麻和解』に見る近代漢語の定着過程」…上稿では『波留麻和解』の中に見られる出現時期の早い訳語を提示することに終始したが、『波留麻和解』の中にはその他にも「濾過ス/濾過スル」「凝固メル/凝固スル」「思考フ/思考」など、近代漢語の定着過程を示しているような注目すべき記述が存在する。この論文では、そういったのちに近代漢語として定着した翻訳語が、最初から音読みされていたとは限らず、使われ始めた当初は意味の取りやすいように訓読みした状態でも使用されていたことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
論文の執筆は順調に進んでいると言えるが、令和ニ年度と同様、新型コロナウィルスの影響により書誌調査を行うことができなかったので、その点においてはやや遅れていると言わざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和四年度は、『波留麻和解』関西版に関する調査を行うとともに、『改正増補蛮語箋』の「草」部と「木」部に関する論文の続編を発表する予定である。 加えて、可能であれば蘭学辞書の書誌調査を少しずつ行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大により書誌調査等が全く行えず、旅費の使用が無かった分、余剰が生じた。感染状況が収束した段階で、旅費として使用する予定である。
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