2020 Fiscal Year Research-status Report
首都圏方言の古層の記述とその全国若年層への広がりに関する研究
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19K00651
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
久野 マリ子 國學院大學, 文学部, 名誉教授 (90170018)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 首都圏方言 / 古層の記述 / 若年層へのひろがり / 新東京都言語地図 / 方言文法 / 東京都の高年層 / 東京都の青年層 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は二つある。一つは、共通語の基盤となっている東京方言と、その後の地域と人口の拡大により首都圏方言の基盤となった主として南関東方言の古層を記述し保存することである。全国に通用する言葉として広がった共通語は、その基盤となった東京方言や南関東方言の詳細な実態は未だ充分に明らかにされていない。しかも、東京方言は首都圏の中で使用人口が減って周辺の首都圏のことばと、全国のことばを取り入れた共通語化が進んでいる。東京方言や首都圏方言の75歳以上の高年層ではかろうじて古層を保持している。古層の実態を記述する最後の好機である。これを記述して若年層の実態と比較することで、日本語の歴史の解明と共通語の性格が明らかになる。成果は、国語教育、日本語教育、第二言語の習得の研究に貢献できる。 研究は次のことを行う。『新東京都言語地図』を完成させる。『新東京都言語地図』の作成をおこなった。これは『東京都言語地図』(昭和60年)を補完する改訂版である。首都圏方言の実態と比較するために東京都の言語実態を明らかにすることが必要である。すでに音韻の地図が完成しており、それに続き、2019年度にアクセントの項目地図を完成させた。今年度は方言文法の地図を完成させる。 二つ目は、首都圏方言が共通語の丁寧でない文体として全国の若年層の間に広がっている実態を把握するために東京都をはじめ主要な地点の若年層にアンケート調査を実施する。東京都、首都圏の高年層話者の方言調査と録音保存とその分析である。 本年度は、成果の一部を第13回ブラジルに本研究国際学会・第26回全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会で招待講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は新型コロナ蔓延防止措置による自粛で当初の研究の推進は十分とはいえなかった。 『新東京都言語地図』作成のために、1)元データの調査資料のデジタル化をおこなった。2)新東京都言語地図の文法項目の言語地図を作成した。地図作成においては、新型コロナウイルスの感染防止対策として、『新東京都言語地図』の文法項目作成の研究会はすべてオンラインのzoomでおこなうことになった。zoomの環境整備と準備に時間を要した。方言文法項目の持つ特徴に対応させるために、文法項目の地図では作成した地図の解釈と説明を伏すことを決めた。そのためのフォームを作った。これに沿って、地図作成の作業を進める予定である。 首都圏方言の若年層への拡がりをあきらかにするために高校生のアンケート調査が必要である。すでに選んだ調査項目の補完を行い、東京都内の調査を行った。さらに全国主要定地点への調査旅行を計画したが、新型コロナの蔓延により調査に行けなかった。 海外渡航が自粛となり、当初計画していたブラジリア大学で開催される国際学会への出張が取りやめになったことにより、旅費の執行ができなかった。国際学会はオンラインで開催され、研究代表者が本研究の成果の一部について講演(招待講演)を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度の当たるため、研究の完成を目指す。まず、前年度から作業を続けている『新東京都言語地図』文法編を完成させる。言語地図の作成において、文法項目は語形のバリエーションが多数ある。文法項目の地図を作製するために従来のアプリケーション設計の手直しが必要で、システムの改良を依頼する。地図作成作業は専門的知識のある研究者に地図作成作業への協力を依頼する。研究協力者とは今年度も引き続きオンラインによる研究会を開いていっそう綿密に情報の共有をはかり作業を進める。 文法項目において新たに確認されたことは、地理的分布の存在である。他のアクセントや音韻項目では確認されなかった東京都内での地理的分布が、文法項目では確認できる項目があることがわかった。即ちいくつかの項目において、東京市旧15区、35区、23区の区分や多摩地区や伊豆諸島の違いが文法語形の分布に見ることができるのである。これらの分布を、①東京都の政治的区分と地理的な拡がり、②先行研究による成果と全国的な分布とを比較して、東京都の方言文法の特徴をあきらかにする。③高年層と若年層の実態を比較して変化の道筋をたどる。④新東京都言語地図の実態から現在の首都圏方言の新しい現象への移行をあきらかにする。 全国主要方言の高校生へのアンケート調査を実施する。項目に首都圏方言の若年層の言語特徴を補完する。資料の入力は外部に委託する。すでに集められた高校生資料と、首都圏・主要方言の資料を比較検討して、日本語に起こりつつある日本語音声の変化と首都圏方言の全国の若年層への拡がりの様相を把握する。 首都圏方言の古層の調査は専門知識の豊富な研究者に調査の協力を依頼する。作業によっては学生や大学院生にアルバイトを依頼して作業の効率化を図る。成果は、論文や講演などで広く公表して評価を仰ぐ。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染防止措置によって、研究活動が活発に行えないことがあった。 第13回ブラジル日本研究国際学会、第26回全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会がコロナのため9月の開催が2021年3月に延期になり、渡航が不可能となった。2021年3月にオンライン開催になったため、旅費の執行ができなかった。国内の調査旅行も自粛せざるを得なかった。 『新東京都言語地図』の地図作成においては、アプリケーションのバージョンアップができたが、それを使って地図化する際にコロナウイルスの感染防止のため文法項目作成研究会はすべてオンラインでおこなうことになった。オンラインzoomの環境整備と、その円滑な運営に至るまでに時間を要したことにより、研究会の開催の回数が減り、地図の完成が遅延して印刷費が執行できなかった。それに伴う研究の鈍化により人件費・謝金の執行も当初の予定通りには支出できなかった。
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Research Products
(1 results)