2020 Fiscal Year Research-status Report
日本語学習者による漢字語彙の認知処理の特徴:学習者は漢字をどう捉えているか
Project/Area Number |
19K00737
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大和 祐子 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 准教授 (80707448)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本語教育 / 漢字(語彙) / 認知処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,まず前年度に引き続き,非漢字系日本語学習者の漢字語彙の読み取りテストと書き取りテストの結果から,日本語の語彙知識との関係を探った。その結果,準漢字圏日本語学習者(韓国語母語話者)を対象とした同様の研究で示された逐次モデルにも並列モデルにも非漢字系日本語学習者のデータは適合しないことがわかった。その理由として,被験者の母語の書字形態や語の音韻的類似性の違いのほかに,被験者の日本語能力の違いもモデルの適合度に影響していると考えている。また,非漢字系日本語学習者(シンハラ語を母語とするスリランカ人日本語学習者)にみられる読み取りテストと書き取りテストにみられる読み誤りと書き誤りを分類し,読み誤り・書き誤りの特徴を探った。特徴を分析する際には,非漢字系日本語学習者に対する漢字語彙学習ストラテジーや漢字学習ビリーフについてのインタビューを質的に分析した先行研究も参照した。これらの分類および明らかにした特徴は,実験刺激とする漢字語彙(正しいと判断すべき漢字語および正しくないと判断すべき疑似漢字語)の選定・作成および実験デザインの妥当性の確認にいかすことができる。さらに,他研究で使用した非漢字系日本語学習者向け四者択一の漢字語彙テストの項目分析から,多様な選択肢構成のうち誤答率が高かった項目は音韻的に類似している錯乱肢,形状的に類似している錯乱肢,意味的に類似している錯乱肢のいずれのタイプの錯乱肢なのかを調べることにより,非漢字系日本語学習者がどのように漢字語彙をとらえているのか知る手がかりとすることを試みた。また,これらの結果は,後に実施する予定の実験(語彙性判断課題)の仮説をたてるための資料とすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,実験計画の決定,実験刺激の選定はおおむねでき,実験実施に必要な準備はおおむね整った。しかし,新型コロナウイルスの影響で厳しい入国制限があるため,被験者となる非漢字系日本語学習者の協力が得られず感染拡大の影響で,実験実施に至らなかったため,計画よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,外的な要因で実験実施がかなわなかったため,実験デザインの再検討や実験実施に向けた準備を,読み取りテスト・書き取りテストの分析,四者択一の漢字語彙テストの項目分析を中心に行った。これらの分析は非漢字系日本語学習者の漢字認知のオフライン処理の観点からの分析であり,本来の研究計画には含まれない分析もある。 今後,実験実施の見通しがどの程度たつかにもよるが,可能であれば,当初の計画通り非漢字系日本語学習者に対して実験を実施したい。もし,それが難しい場合には,本研究における実験の位置づけを変更することも検討したい。
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Causes of Carryover |
実験実施が次年度に持ち越しになったため,また情報収集のための学会がオンラインでの実施となったことで学会参加のための旅費が不要になったため。次年度以降,実験実施に必要な人件費として,実験結果の分析や論文執筆に必要な書籍,分析ソフトの購入にあてたい。
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