2019 Fiscal Year Research-status Report
20世紀の亡命ロシア人社会と「移動させられたアーカイブズ」に関する研究
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19K00932
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
バールィシェフ エドワルド 筑波大学, 図書館情報メディア系, 助教 (00581125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 在外ロシア / 亡命ロシア人 / 移動させられたアーカイブズ / 文化遺産 / 社会的記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度中、「在外ロシア」の歴史とその記録遺産に関わる基礎的な文献の収集および手元の一時資料の分析を中心に研究を進めた。第一に、基礎的な文献の収集・検討を心掛け、「在外ロシア」、ディアスポラ論および「移動させられたアーカイブズ」に関する理解を深めようとした。第二に、コロンビア大学バフメーチェフ文書館(Bakhmeteff Archive of Russian and East European Culture, 以下はBACU)で収集した資料を頼りにして、研究テーマに密接に関わる資料を整理し、分析的な枠組みについて考えた。殊に、それを通して、①亡命ロシア人関連の特定の記録群の運命と②亡命ロシア人関連の諸文書館の制度的な特質とこれらの関係性の解明を狙った。スタンフォード大学フーバー研究所文書館(Hoover Institution Archives, HIU)およびプラハのロシア在外歴史文書館(Russian Historical Archive Abroad, RZIA)より遅れて設立されたBACUには、前者の収集活動と収蔵コレクションに光を当てる貴重な記録があることを判明し、アーカイブズで媒介された三者の密接な関係が明らかとなった。また、この分析を通して、この三者の文書館コレクションのなかで元の公文書(public records)が占める位置と割合を概ね把握できた。本年度中、「在外ロシア」の「移動させられた」アーカイブズに関する自分の問題意識を一層具体化させ、上記の文書館の関係性を解明したたことは最大の実績であったといえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
やむを得ない家庭の事情で、2019年度内に予定していたロシア(モスクワ)およびチェコ(プラハ)での資料収集を実施できなかったので、目立つほど大きな進展や研究成果がみられなかったものの、文献収集および手元の一次資料の検討が順調に進んでいる。また、「在外ロシア」の現象とその記録遺産をより真剣に考える時間を得たため、研究構想の深化にもつながっている。現在、HIA, RZIAおよびBACUという三者の間で分割されてしまった駐日ロシア陸軍武官の記録群(fonds d'archives)の運命をテーマにした論文の執筆にとりかかろうとしているほか、戦間期の極東の亡命ロシア人とその記憶を取り扱う新たな論文を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
元の計画どおりに、第一に、「在外ロシア」のアーカイブズの量的かつ質的な構成と分布を明らかにしていく。いまだ拡大しつつあるコロナウィルス感染がもたらす生活上の悪影響が緩和されたら、2019年度に予定していた海外出張を直ちに成し遂げ、研究を本格化していく予定である。また、2019年度、日本を含む極東の「在外ロシア」とその記録遺産の足跡を探った結果、本研究プロジェクト上の調査対象には、サンフランシスコのロシア文化博物館アーカイブ(MRCSF)およびハバロフスク地方国立文書館(GAKhK)所蔵の満洲国白系露人事務局(BREM)のアーカイブを新たに追加する必要があることが判明した。これらの文書館の所蔵記録目録を丹念に検討して、補助事業期間内に調査を実施したい。また、第二に、「在外ロシア」関連の「移動させられたアーカイブズ」の受入プロセスの詳細を見極めるため、モスクワおよびプラハの「記憶保存施設」に保存されているRZIA管理記録を収集・閲覧する。それをもって、「移動させられたアーカイブズ」の構想とその適用範囲を一層具体化させることができると考えられる。
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Causes of Carryover |
やむをえない家庭の事情で、2019年度内に海外調査を実施し、集中的に科学研究プロジェクトを推進することができなかったため、それらを2020年度に実施する予定である。具体的にいえば、モスクワのロシア連邦国立文書館、チェコ共和国の国立図書館(プラハ)および米国のサンフランシスコ湾岸地域の諸資料館(HIUやMRCSF)において資料収集を積極的に行い、研究上の基盤を整える予定である。同時に、文献収集と資料分析を継続し、研究成果の論文化に向けた作業を活発化させたい。
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Research Products
(1 results)