2020 Fiscal Year Research-status Report
東西文献からみたモンゴル、ポスト・モンゴル時代の軍事と外交
Project/Area Number |
19K00939
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮 紀子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (60335239)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | モンゴル時代 / ポスト・モンゴル / 軍事 / 外交 / 天文学 / 数学 / 東西交流 / 偽書 |
Outline of Annual Research Achievements |
モンゴル時代、ポスト・モンゴル時代の政治・軍制・外交・文化のシステムと実態の解明、ならびに『元史』の「本紀」や「志」の再編纂の作業に有効な基本作業として、東西の原典資料を収集、整理し、相互に徹底的な比較・照合・分析を行った。重要なペルシア語資料の訳注作業を進めつつ、ペルシア語、アラビア語、ヨーロッパ諸語資料中のテュルク・モンゴル語、漢語等、漢籍中のペルシア語、アラビア語、テュルク・モンゴル語を抽出・整理し、相互に徹底的な比較・照合・分析を行った。 その過程で、モンゴルの軍事行動を支えた「天文学」、「数学」、「地図」についての新知見を呈示した。①現物が失われて内容がわからなくなっている耶律楚材の『麻塔把暦』が、セルジューク朝スルタン・サンジャルの「ムタバル暦」の翻訳であったこと、それが中国数学史に画期的な――未知数を二つ、三つ設定した高次方程式についての研究の進展をもたらした可能性が高いことを指摘した。そうした研究書のひとつ『乾坤括嚢』(散逸)の作者を劉沢(字は潤夫)と特定した。かれは山西省汾西出身で、耶律楚材が進めていた改暦計画のスタッフとして司天臺に採用され、大監にのぼりつめた人物であり、同書がアラビア天文学の刺激のもとに執筆された書籍であることが判明する。おそらく1240年代に刊行されたことも指摘した。 また、東西の「原典資料」のなかには、さまざまな目的、意図をもって作成される偽書が存在するが、それらの見分け方についても概説した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍で国内外懿に直接調査に赴くことはできなかったが、インターネット上に公開されている所蔵資料の把握につとめ、さらに影印本を中心に、新書・古書を問わず購入につとめた。 13-15世紀に漢語・日本語・ペルシア語・アラビア語・テュルク語・モンゴル語・ヨーロッパ諸言語で書かれた最古最良の典籍・文書現物・地図・ミニアチュール等の図像資料・多言語辞書・対訳資料などの収集作業を行った。具体的には、漢文資料は元・明刊本を中心に、それを覆刻・重刊した朝鮮版、五山版、抄本などを徹底的に集め、同時に膨大な中国歴代の地方志、拓本をはじめとする石刻資料、考古発掘報告、朝鮮王朝実録や文集などの朝鮮資料から、モンゴル時代、ポスト・モンゴル時代の軍事・外交に関わる記事を抽出・整理した。ペルシア語資料については、できるだけ最古最良のテキストを選ぶことを心がけながら、歴史書はもとより、医学・薬学・数学・工学・農学など科学技術に関する資料、中国、ユーラシア中央域との交流を直截に示す実物資料、ならびに当時の世界認識や交通ルートを示す地図のほか、画像資料の収集につとめた。フレグ・ウルス、ジョチ・ウルス(=キプチャク・ハン国)およびその後継王朝と通商・外交使節団の交流があったヨーロッパ諸国、マムルーク朝等の根本資料、研究文献、イランやトルコ、ロシアの発掘報告や美術書、博物館の所蔵品図録の収集も行った。フランス、イギリス、ドイツ、ロシア、イタリアには、国力を投入してなされた外交・通商文書、地図・言語資料にかかわる分厚い調査・研究の蓄積があり、これらの把握と利用につとめた。とくに重要なペルシア語資料の訳注作業を進めつつ、東西資料の比較・照合・分析を行った。 その過程で、軍事行動を支える「天文学」「数学」「地図」についての新知見を呈示することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍のなか、国内外の所蔵機関に実際に赴いて資料蒐集を行うことは困難とおもわれるが、インターネット上で公開されている所蔵資料の渉猟、書籍の収集につとめる。 引き続き『オルジェイトゥ史』、『ヴァッサーフ史』、『集史続編』、ハーフィズ・アブルーの歴史書・地理書、『ラシード史』のペルシア語資料等から、諸ウルス、モンゴルの後継勢力、明王朝等の外交使節団や戦闘、軍事展開、当地の伝聞・情報等の重要記事を抽出する。並行して膨大な中国歴代の地方志、拓本をはじめとする石刻資料、考古発掘報告、朝鮮王朝実録や文集などの朝鮮資料から、モンゴル時代、ポスト・モンゴル時代の軍事・外交に関わる記事を抽出・整理する。これらによって、緻密な訳註の作成を行い、三年間の研究の総括として、これらの訳注、学術論文の公刊にむけて努力する。 ウイグル語やモンゴル語の文書の断片だけでは見えてこないチャガタイ・ウルスやカイドゥの王国の全体像の描出、ユーラシア中央域や大元ウルスの軍事展開・外交に焦点をあてたモンゴル帝国史、ポスト・モンゴル史の構築、北のモンゴルと西のモンゴルに挟まれながら国家を経営せねばならなかった明代の軍事と外交の歴史の見直しの着実な一歩としたい。 また、研究成果の社会への還元をめざして、これらの作業を通じて判明してきた事柄、新知見を、図像資料、表等も駆使しながら、概説書2件の執筆を進めている。論文に仕立てるほどではないが、捨てるには惜しい文献の記事、ささやかな発見等も、随時公開してゆく予定である。
|
Causes of Carryover |
発注していた洋書の刊行が遅れたため、購入を次年度に延期した。
|
Research Products
(2 results)